食物をめぐる旅

食と健康

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私たちは、日々、さまざまなものを口にして生きています。しかし、私たちが食べている食品というのは、「食品」とは名前がついているけれど、多くの場合、「食品ではない何か」だったりします。

例えば、「練り物」

現在社会においては、私たちの身の回りには、実にたくさんの練り物が存在します。ファストフードのハンバーガーには、ハンバーグ1枚につき約500頭分の牛の肉が含まれています。牛1頭から500枚のハンバーグができるというのならばイメージできるでしょうけれど、実体はその逆で、原価の安い1枚のハンバーグを作るためには、500頭分の牛の、ふつうなら捨ててしまうような、クズ肉やら、骨のカケラやら、目の玉やら、牛のカラダの色々な部分を寄せ集めて、均等にし、練り物にして加工するのです。

また、それらの原材料は、それそのものでは旨味に乏しいため、人工調味料を添加したり、長く日持ちさせるための保存料を添加したりしています。それは、ほかの冷凍食品でも、お惣菜でも、さまざまなものについて言えます。

それらは結局、作られたプロセスが見えないままに、パッケージされて世の中に出回っているのです。食品についていえば、誰が作って、どういう過程を経て料理がなされ、何がその中に入っているかは私たち消費者にはわかりません。もしも、自分で作るなら、その中にどんなものが練り込まれているかがわかるのですが、私たちはそれを、誰かよその人にお任せしているわけなのです。

お任せすることによって、その任された人たちは、それを安い原材料を寄せ集め、均等に加工し、大量生産することによってコストを下げているわけなのですが、そのことにより、私たち消費者には、そのプロセスがわかりにくくなってしまうのです。

 


 

■時代とともに変化した食■

人間の歴史は、この地球に現世人類が誕生して10万年か20万年くらい、人の祖先が現れては100万年くらいになります。そのほとんどの時代で、「まずはその日の食べ物をいかに調達するか」そのために多くの時間が費やされてきたことは想像に難くありません。

ある者は狩りをし、ある者は魚を獲り、またある者は穀物を栽培し、それを糧としたでしょう。それらを全部自分たちの手で行っているなら問題はないのですが、「食べ物を得る」という誰もがエネルギーと労力を費やさねばならないことをアウトソーシング化し、他者に任せることによって、その代わりに自由な時間を得、それぞれがそれぞれの専門分野で生きることが可能になったのが現代であり、「食べ物を得る」ことを他者の手に渡し、そのことへの対価を支払っているのが、現在の経済システムであると言えます。

しかし、そうなると、そこが見えないゆえに、色々な問題が起きてくるのです。

例えば、ファミリーレストランなどへ行って、メニューを見ると「ハンバーグ定食 800キロカロリー」などと表示されていたりします。確かにそれは、800キロカロリーかも知れません。しかし、食べ物をカロリーだけで見る習慣をつけていると、「食べる」という行為の裏にある大切な側面を見失ってしまうことになります。

 

■食べることは分子の流れを維持すること■

つまり、食べ物をカロリーとして捉えるということは、私たちのカラダがエンジンのようなもので、エネルギーとしてのガソリンを入れさえすれば車は動く、と考えるようなものです。それは、いのちの成り立ちをまるで機械のように捉えてしまうことでもあります。

しかし、実は私たちのこのカラダを構成している分子のひとつひとつは、食べ物を構成している分子との間で、絶え間ない「交換」をしているのです。私たちのカラダは、常に成長し、変化している、そして壊され、組み立てられている。合成と分解を繰り返しているものなのです。

分子生物学という新しい学問が、この数十年間の間に、「人体について」の様々な事実を明らかにしてきました。

そこで分かった最も大きなポイントのひとつが、先に述べた「細胞は合成するだけでなく、精妙で許容範囲の大きな、分解するしくみを持っている」ということです。

その「分解のしくみ」こそが、生命がこの地球上に誕生してからの38億年もの間、生き延び、秩序を保ってこられた唯一の方法なのです。

すべての秩序あるものは壊れるというのは、宇宙の大原則であり、エントロピー増大の法則です。いち早く分解し、そして作り替えを行うことで、生命そのもののはカタチを変え、つなげていくことが可能になるのです。

そして、生命をつなぐ材料は、すべて食べ物としてやって来ます。それゆえ、食べる行為の一番の大きな目的は、ただ単にカロリーを摂取するだけではなく、カラダの分子の流れを維持していくことにあるのです。

 

■旅する分子たち■

食べ物を食べることを通じて、生命の分子が旅をする。それがイコール「食べる」という行為であれば、私たちが作られるまでのプロセスが見えない「練り物」を食べるということは、得体の知れない分子群をカラダの中に入れるということです。

練り物を作る工程で、中身を均等にするため、長く保存するため、流通に適応するために、ありとあらゆる非栄養的なモノが原材料として入れられているわけなのです。

それらは、カロリーにさえならないし、カラダの一部にもならないのですから、結局は私たちのカラダの中で退けられ、捨てられてしまうものですが、その過程でカラダそのものに不必要な負荷をかける要因となってしまうのです。

そうした、得体の知れないものを取り込むことは、自分自身のカラダという環境を損なうと同時にカラダにとって要らないものがカラダを通過して、再び環境に戻るので、地球環境をも損なう結果になると言えます。

食の安全性と引き換えに多くの人が求めているのは、1円でも安い食品ということ。食べ物を選択する基準が「価格」になれば、どうしてもそういう傾向に陥ってしまいます。

食物というものが、生命を構成する大切な要素であり、食べるという行為を通じて、それがこの地球を循環している。

時にそうした視点から「食べる」ということをもっと見つめ直してみたいと思うこの頃です。

 

 

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