インターネット時代は、ネットを介して人と人とが繋がり、情報が行き来します。それにより情報は瞬時に拡散し、様々な分野において新しい発見や認識の一助となります。しかし、そのあまりのスピードの速さゆえ、十分な確認を取らぬまま、誤った認識で記事を書きアップしてしまう愚を犯すことがあることも否めません。そう、私とて例外ではなく。
以前、私自身の里芋に対する偏愛をテーマに記事を書いたことがありました。そのタイトルは、『「いもぐすり」を活用しよう!里山芋子のパスター』。
私は里芋が好きなあまり、一食材である里芋に対して「里山芋子」と女性のような名前をつけて食し楽しんでいるのですが、その熱い思いと里芋の持つ効用、そして活用法について記事にしたのでした。
ところが先日、書いた内容についてある方から一通のご批判のメールをいただき、その内容に驚愕したのです。
記事の中では、里芋のガラクタンという成分について触れ、このガラクタンに脳を活性化させる効果が期待ができると書きました。また、ぬめりに含まれるムチンについても触れ、糖質とタンパク質が一緒になったもので、食べると便秘の解消に効果があり、消化吸収を助けるため、便秘に悩んでいる人は、ぬめりを取らずに調理してしっかり常食しましょうと書きました。
さて、その記述について一通のメールをくださった方があったのですが、その方は学術コンサルティングに関わっていらっしゃる方で、きちんとご自身のお名前を名乗られた上で、
>「ムチン」、「ガラクタンは、脳を活性化」と記述する根拠についてご教示くださいますようお願いいたします。
とのご丁寧な内容のメッセージをくださいました。
私は、ムチンもガラクタンも野菜などのぬめりに含まれる成分であり、ムチンについては消化液アミラーゼとともに私たちの唾液の主成分でもあるという認識を長い間持っていました。
唾液の成分がムチンであることは、昔、解剖生理学を学んだ時に担当の先生から講義の中で教えていただいたことであるのに対し、食物中に含まれるとされるムチンについては、私が過去に読んだ食と栄養についての書物の中で見つけた「野菜におけるネバネバ物質の主成分となるのがムチンである」との記述によります。確か、著者は栄養士さんであったと記憶しています。
このようにして「ムチン」についての情報ソースが異なる方面に二つ存在したわけです。その後、テレビやラジオの健康情報番組でも「食物のネバネバはムチンという成分」と繰り返されているのを耳にして、いつのまにか唾液中のムチンと食物中のネバネバ成分は同じく一つのものとの認識を持ってしまいました。それはまるで昨年ヒットしたピコ太郎の「ペンパイナッポーアッポーペン」のように。
ところがメールをくださった方はそれが「誤り」であることを私にいくつかのサイトを紹介した上で指摘してくださいました。それは次のような内容です。
※参考
[1]デジタル大辞泉:ムチン(mucin)動物の上皮細胞・粘膜・唾液腺などが産生する粘性物質の総称。糖たんぱく質の一種で、アミノ酸がつながったポリペプチド鎖に糖鎖が枝状に結合した構造をもつ。[補説]オクラや山芋などに含まれるぬめり成分もムチンと呼ばれることがある。これは高分子の多糖類とたんぱく質が結合したもので、動物の粘液に含まれるムチンとは異なる。
ムチン(むちん)とは? 意味や使い方 - コトバンクデジタル大辞泉 - ムチンの用語解説 - 動物の上皮細胞・粘膜・唾液腺などが産生する粘性物質の総称。糖たんぱく質の一種で、アミノ酸がつながったポリペプチド鎖に糖鎖が枝状に結合した構造をもつ。
さらに、その方がリンクしてくださったもう一つの文献によると、動物から産生されるムチンと植物性食物のぬめりに含まれるムチンは別なものであるだけでなく、そもそも「ムチンという日本語名」が誤解のはじまりであるとする指摘があり、目からウロコが落ちました。元理化学研究所研究員だった方が書かれた文献にはこう書かれていたのです。
ムチンは英語で mucin と記載する。ミューシンというのが一番近い発音で、百歩譲ってもムシンである。ストレプトマイシンは-cinであり、コンドロイチンは -tin であり、それらが誤用されている例は、ムチンの他にはない。世界的に見ても-cin を「チン」と発音する例はなく、日本名がなぜ「ムチン」となったのかは謎である。これは明治大正あるいはそれより前の出来事のようだ。
科学的には、植物由来のねばねば物質をムチンとは言ってはいけない。セリン残基またはトレオニン残基のOH基が、単糖または糖鎖の 1 位の OH 基と脱水縮合した「O 型糖鎖」が、多量かつ密に含まれる高分子ペプチドが mucin と定義されている。今のところ、この構造が確認されているものは、すべて微生物あるいは動物由来であるが、日本では料理研究家や食品関係の研究者でさえも、山芋、オクラ、納豆などのねばねば物質を「見た目で」ムチンと呼ぶ習慣があり、広く流通している事典などにも記載がある。
これらの多くは別の物質で、構造からもムチンではない。学者の間で国際的かつ科学的に通じないだけなら、市民の「通称」を認めてもよいかもしれないが、健康食品や野菜類の PRや健康番組で「ねばねば物質が胃液のムチンの補充になる」などという科学的にも誤りであるうんちくが繰り返されているので、著者は適当ではないと考えている。
私は何もネバネバ物質が胃液のムチンの補充になるとは言ってませんが、食物中のネバネバ物質がムチンと認識していたのは事実なわけで、今回ご親切に指摘してくださったおかげで自分の間違いに気がつきました。
さらにもう一点。私が書いた「このガラクタンに脳を活性化させる効果が期待ができる」とした内容についても次のようなご指摘をいただきました。
※ガラクタン: サトイモの粘性物質、「ガラクタン」がヒトの脳に作用するという情報がありますが、それらはすべて、ガラクタンとヒトの母乳に含まれる「ラクトース(乳糖)」とを混同した、いわゆる「とんでも説」です。ガラクタンは(加熱)調理してもヒトの体内でも、その構成糖であるガラクトースに分解されることはありません。
メディアを使った研究不正|メディアにみる社会の無知や無関心につけこみ、科学の常識を無視し、進歩を阻み、職業倫理にもとる研究"メディアを使った研究不正"とは。
砂糖と化学的に良く似ている糖質にラクトース(乳糖)がありますが、これは乳に含まれている糖のことを言います。一分子ずつの果糖及びブドウ糖が結びついたものが砂糖ですが、ブドウ糖にガラクトースが結びついているのが乳糖です。牛乳やヒトの母乳などもラクトースに分類されます。
赤ちゃんは母乳を栄養素としますが、ラクトースは腸内でビフィズス菌を増やすために必要です。ビフィズス菌は乳酸菌の一種で、これが免疫力を高め、種々の感染を予防するのに役立っていて哺乳動物の赤ちゃんにはとても必要な糖といえます。ガラクトースはブドウ糖とともにこのラクトースの半分を構成している成分であり、脳や神経に存在していることから脳の発育にも影響しているのではないかと考えられているのです。
私が「ガラクタンに脳を活性化させる効果がある」とした情報ソースは、関東学院大学の健康栄養学科に津久井研究室というのがあって、そこの津久井先生が「里芋のぬめり成分であるガラクタンが脳の構成成分になったり、エネルギーになったりしていると考えられる」と以前テレビで述べられていたのを参考にしています。
しかし、ご指摘をいただいてから、ネット上でその科学的根拠について探してみたところ、確かにこれといった説得力を持つものは見当たりませんでした。残念ながら、指摘される通りの専門家の間違いか、あるいはあくまでも推測の域を出ていない印象です。
ガラクタンそのものは、ガラクトースが多数結びついた多糖であり、ガラクトースは単糖です。ガラクタンは山芋や豆類、そして海藻などにも含まれますが、それらをいくら調理、摂取してもヒトの体内で単糖であるガラクトースに分解されることはない、ゆえに脳の発育にとって必要なラクトース(乳糖)とは似て非なるもの、というのがメールをくださった方の主張です。
実によく調べてらっしゃると感心しました。と同時に私が執筆した内容の訂正とお詫びを兼ねて、読者さまにお知らせいたします次第。
「ガラクタンに脳を活性化させる効果が期待ができる」としたのは私の誤りです。そして、植物に含まれるネバネバ物質も正確には「ムチン」ではありません。読者の皆さま、ごめんなさい!どうか認識を改めてくださいませ。
でも、インターネットというのはこのようにして見知らぬ方からご指摘やご意見を頂戴したりして知識や考察を深める機会が多くあるものです。メールをくださった方もとても紳士的で、大変気持ち良いやりとりをさせていただきました。また、その方が伝えてくださった情報の中には興味深いものが多く、新しい視点もいただきました。
例えば、北里大学理学部化学科・教授の丑田公規(うしだ きみのり)先生の論文をご紹介くださり、日本の海のいたるところに生息するクラゲの習性や、そのクラゲの中に「ムチン」を発見し、それが将来、胃潰瘍やドライアイ、虫歯などの疾病の再生医療に役立つ可能性を示唆されていたり。
また、その方が関わっている里芋関連の情報を調べていくうち、「里芋のある抽出成分」が、化学合成された保存料や添加物並みに食品の品質を長く保ったり、味わいを良くするのに役立つというトピックスを見つけました。これは大変面白い内容で、私は改めて里山芋子の持つ魅力にうなりましたよ!
芋子は直接脳を活性化させる効果は期待できないかもしれない、しかし、まだまだ人類にとって恵みをもたらす可能性に溢れた野菜であることは間違いありません。その可能性については次回お伝えいたします。
*2020.9.22 追記:以前ムチンについてご指摘くださった 株式会社はなもみ代表の池田さまより、日本国内でのみ拡散していた「植物や発酵食品にムチンが含まれる」とする誤った情報のソースになっていた公益社団法人・日本食品化学工学会サイト資料の一文が訂正されたとのメールをいただきました。
これで本ブログでも、正式に「ムチン」は動物性の成分である、としたいと思います。池田さま、ご親切にご指摘ありがとうございました!
⭐️ 本気で里芋を暮らしに活用したいと考えるならば、これくらいまとめて購入する必要がありそうです。ならばやっぱりオーガニックを選びたい。雲仙産の里芋とはまだ未知の体験。もしも食した方があれば、ぜひ私までご一報ください!
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コメント
(令和の改新)「明治百五十年の大過」について【ムチン騒乱】
(「ムチン様」「ムチン質」はもちろん、「ムコ多糖体」、「ムコ多糖(類)」、「コンドロイチン(硫酸)」、「ヒアルロン酸」、そして「ムチン型糖タンパク質」も動物性の成分を指す言葉です。
なお、最新の訂正状況については各自、キーワード検索「ムチン 訂正」でご確認ください。)
(参考)NHK松山放送局:
※「食品工業辞典(日本食品科学工学会)」によると、ムチンとは「動物より分泌される粘質物一般をいう」とあります。日本では、レンコンなど植物のねばねば成分を「ムチン」と呼ぶ習慣がありますが、これらの多くは別の物質で、構造からもムチンではないという研究結果が発表されています。
https://www.nhk.or.jp/matsuyama-blog/gyutto/haiku/440680.html
正誤表:
1.高橋書店(東京都三鷹市):
「からだにおいしい野菜の便利帳」/「もっとからだにおいしい野菜の便利帳」
当書籍は、重版時より以下の対応をいたしております。
「ムチン」の記載を削除し、含有する他の栄養素に関する情報を掲載
https://www.takahashishoten.co.jp/correction/26290/
https://www.takahashishoten.co.jp/correction/11530/
2.廣川書店(東京都文京区):
2020.08.31『 ドーランド医学大辞典 第28版 』(日本語翻訳版)の1792ページの「 mucilage 」の項における、「 ムチン質 」という用語(記載)は、削除致します。
http://www.hirokawa-shoten.co.jp/news.php
http://hirokawa-shoten.co.jp/book-4-567-00078-1.html
3.同文書院(東京都文京区):
『新◆櫻井 総合食品事典』訂正について
本書 P.1004 に掲載する項目「ムチン,ムコたとう ムコ多糖」について、以下の通り分類項目を改め、訂正させていただきます。掲載内容は次回改訂時に修正の予定です。
https://www.dobun.co.jp/img/seigo/ISBN978-4-8103-0036-9.pdf
https://www.dobun.co.jp/shop/tkxcgi/shop/goods_detail.cgi?GoodsID=00000311
学術秘書
池田です。
資料をご覧いただき、可及的速やかにご対応(周知・伝達、普及・啓発)くださいますようお願いいたします。
資料:
1.ムチン奇譚:我が国における誤った名称の起源(2019年)
https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9701/9701_kaisetsu.pdf
2.公益社団法人日本食品科学工学会(2020年)
食品工業辞典(日本食品工業学会編、昭和54年第1版発行)の用語解説の訂正について
https://jsfst.smoosy.atlas.jp/ja/notices/71
3.JA水戸(2021年)
当組合「健康カレンダー2021」の掲載内容の誤りについて
https://www.mt-ib-ja.or.jp/news/post-7953.html
4.JA夢みなみ(2021年)
当JA「支店だより(2017年11月号)」の掲載内容の誤りについて
https://www.ja-yumeminami.or.jp/news/?id=85
では。
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公共メディア じゃんぬ
Common Sense, Jeanne
https://jeanne.jp
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株式会社はなもみ(法人番号:3050001008638)
代表取締役社長 池田剛士(携帯:09041347927)
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池田様、ご丁寧なご指摘、訂正ありがとうございます!
本ブログ、しばらく休止しており長い間メッセージに気がつかずお返事が遅れてしまいごめんなさい!
来月から再開の予定でおります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします!