世の中には、自分では愛しく思いながらも、それを人に教えるには少しだけ躊躇(ちゅうちょ)してしまう、そんなコトがらというものがあります。
私にとってそれは、昔々、中国を旅した時期に、地元の中国人から習って、以来ずーっと友として、嬉しい時も、悲しい時も、もう30年近くにわたって行っている「ある体操」です。
そのあまりの単純さゆえ、人に言うのもはばかられるような、そんなマイナーな体操なんです。
例えば、「健康のために何かしてる?」と他人様から訊かれて、「うん、ヨガやってる」とか、「ええまあ、ピラティスを少し」とか、「週2でジム通ってます」とかいう答えなら問題はありません。一般的に通りが良いからです。
・・・しかし、困ったことに私の愛する体操はそうはいきません。
まず、質問に答えた直後に必ずと言って良いほど「何、それ?」と再び訊かれ、必ずそれについての説明をしなければいけないのです。
しかし、私が一通り説明した後、ほとんどの質問者はよけいにどんな体操かわからなくなり、勝手に期待に胸膨らませ、「中国4000年の歴史から生み出された体操なんだからかなりすごいやつだろう」とか、「気功の国の由緒ある体操なんだから、こちとら飛ばされるかもしれないぞ、覚悟してかからなきゃ」とか迷惑な勘違いをさらにエスカレートさせ、十中八九「すまんが、実際、どんな体操かやって見せて欲しい」と言い出す始末。
結果、私のほうとしても仕方なく質問者の前でいよいよその体操をやって見せるわけですが、大方の予想通り、私の体操を見た相手は皆、惚けたように口をあんぐりと開けて思考停止してしまいます。
気になるでしょう。その体操が一体何であるのか。
・・・もう、無意味に引っ張るのはやめにしましょう。
早々とその体操が何であるのかを明かしたほうが私にとっても身のため。それでは明かしましょう、その体操の名は「スワイショウ」。あなたもきっとこう尋ねたくなるでしょう。
「・・・何、それ?」
スワイショウの起源は古く、今から1500年前の禅宗の開祖と言われる中国の達磨大師が残された『達磨易筋経』の中に健康の秘儀として記されています。しかし、一般的に広まり始めたのは比較的最近のことで、1960年代に中国・上海で治療効果が期待できる気功体操として広められました。
この体操を行うことにより、エンドルフィンの分泌促進が期待できるとともに、胃腸病、喘息、神経症、不眠症、肝臓病、心臓病、肩凝りなど、様々な症状の改善に効果があるといいます。
これは中国武術家にとっても秘伝の宝で、いかなる状況においても緊張と弛緩をコントロールできるようにするための武術の鍛練方法としても用いられ、ふだんからこれを行うことで実戦の際、リラックスした状態で戦いに臨めるそうです。
スワイショウは、中国語で発音してもそのまま「スワイショウ」で、「スワイ」は漢字では「用」の字の真ん中の線が「L」に曲がったような字で日本語にはなく「shuai」と低く発音します。「ショウ」は「手」という漢字を用い、「shou」とこれまた低く発音します。「スワイショウ」の意味は「腕を前後に振り回す」とか、「ほったらかす」などの意味があります。
その名の示す通り、立ったままで両腕を前後に振るだけの実にシンプルな体操で、誰でもどこでも場所を選ばずいつでもできます。もともとは力をこめて速い速度で行うものでしたが、慢性病患者や高齢者の体調に合わせて、軽く動かす方法に改良したところ、その効果が認められ、全国に広まったのです。
言い伝えによると、半身不随で動かなかった人が、手だけでも動かそうとスワイショウを毎日行っているうちに下半身の力がみるみる回復し、歩けるまでになった事実もあるとか。以来、中国で爆発的に広まったそうです。シンプルではあるけれど、なかなかすごい体操という気がしてきませんか?
万病がすべて治るとまでは言えなくても、先にあげた慢性病に対しては確かに効果が認められていて、その理論を説明するならキーワードは「リラックス」です。
しかし、単に弛緩して全身の力を抜けば良いというわけではありません。少なくとも姿勢と動作を維持する以外の筋肉をできるだけ弛緩させリラックスさせるのです。動くことで血液循環を促進し、毛細血管が開きます。そして、外からの動きは内臓はじめ各器官を刺激し、腕の振りによる横隔膜周辺の摩擦刺激は内臓への按摩作用もあります。
これによって、瘀血(おけつ)と呼ばれる体内に停滞した血液を体外に排出し、胃腸の蠕動運動を促し、血行が改善が良くなって心臓が整います。また、関節や筋肉も適度な動きによって刺激され鍛練されるため、種々の関節炎にも効果が高いのです。
また、意識をカラダに集中して行えば大脳が休まり、数を数えながら行えば大脳の一部分のみが興奮し、その他の部分を休めることができます。睡眠前に行えば、ぐっすりと休むことができます。
さて、そんなスワイショウの実際のやり方についてお伝えしましょう。始める前には、少しの間、自然に立って呼吸を整えてから始めましょう。軽く微笑んで口、歯を硬く閉じないようにします。
●姿勢
足を肩幅に開いて足先を前に向け、膝を自然にゆるめます。首筋の力を抜いたら、頭をすっと引き上げるようにしてあごを引きます。
①全身の力をぬいて立ち、両肩をわずかに前に向け、背中の筋肉をゆるめ少し広げるようにします。背筋をまっすぐ、顔は前を見ます。
②肩の力をぬいて、後ろへ両手を振ります。
③そのまま両肩の力を抜いて、両腕を自然に前後同時に振ります。
④無理に反動をつけず、手指は自然に伸ばし、手のひらが少しくぼむようにします。この時、手指をピンと伸ばすと気が手のひらにある労宮というツボに巡りにくくなるので注意しましょう。
⑤このまま前(緊張)後(リラックス)にぶらぶらと動きを繰り返すだけ。これを時間があれば、10~15分繰り返します。
終える時は、徐々にゆっくり振り幅を小さくして止めるようにします。終わってもすぐ次の動作に移らぬように気をつけて、しばらくそのまま立って呼吸を整えます。中国本国ではこれを毎日朝晩、40分で2000回を目安に行うのが理想とのこと。
●注意事項
・天気が荒れていたり、空気が汚れていたり、人の感情が乱れている時は行うべきではありません。
・行っている最中に足がしびれたり、足の裏が熱くなったり、不快な症状が出たとしても、不安がなければそのまま続けます。
スワイショウの前後バージョンに慣れてきたなら、ひねりバージョンにも挑戦しましょう。これは刺激される筋肉が異なるため、新たにフレッシュな感覚を得られてスワイショウそもののを飽きずに長く行えるようになります。
●姿勢
足を肩幅に開いて足先を前に向け、膝を自然にゆるめます。首筋の力を抜いたら、頭をすっと引き上げるようにしてあごを引きます。
①前後バージョン同様に力を抜いて立ちます。
②遠くを見ながら、顔は正面を向いたまま、腰、肩をひねるようにして左右に両腕をねじ回しながら、同時に腹部と背部を軽く手を当て叩きます。
③でんでん太鼓のように叩く位置は腹部、背中の中心に沿って上下させて行い、これを繰り返します。時間があれば、10~15分繰り返します。
*この動きは骨盤内の深層筋群が大いに刺激されるため、腰痛予防にもすぐれた効果があります。
さまざまな病気が快癒したことから、一時は中国全土に広がったスワイショウなのですが、現在は中国を旅しても公園などではあまり太極拳ほどにはやっている人を見かけることが少なくなりました。
理由は、ある時、上海の公園で体調を良くしたいばかりに休みなく一度に4000回行ったおばあさんが突然倒れ、病院に運ばれた事故があったからとか。おばあさんは一命を取り止め、その後、回復したそうですが、以来、ブームは去ってしまったそうです。しかし、その手軽さや効果の高さから、現在、数ある気功体操の中でもすぐれた功法の一つであることに変わりはありません。
長い間、私がひっそりと人に知られず秘密裏に行っていた気功体操・スワイショウ。
こうしてブログで公開してしまった以上、そしてあなたが知ってしまった以上、あなたも私と同じスワイショウ・マニア。この秘密の気功体操を日本全土に普及しようではありませんか。
「健康のために何かしてる?」と他人様から訊かれて、笑顔で自信を持って「スワイショウ」と答えられる時代が来るまで、あなたも私と一緒に朝夕2回、腕を前後に振り続けましょう。
⭐️ 健康とは他人に与えてもらうものにあらず。この世に生を受けた時からすでに傍らにあって、自分自身を支え続けてくれているものに他なりません。さあ、それがわかったら、あなたも他力本願を捨てて私と一緒に気功体操。腹の底からやがて元気が湧き起こります!
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