病原菌を追い出す中医学と殺す西洋医学

東洋医学の知恵

西洋と東洋でモノの見方や考え方が異なるのは、その地域に暮らしている人々の感性が異なるからだと思っています。例えば、空気の乾燥した地域と湿った地域では、自ずとそれぞれの地域に暮らす人々の食べ物や、目に映る風景、体験する出来事だって大きく違ってくるでしょうし、そうした五感で感じることの全てがその地域に暮らす人々のモノの考え方や現象の捉え方に深く影響を与えると思うのです。

中国語にはアルファベットがない?

だから中医学が、現在世界中で主流となっている西洋医学と異なるのも不思議なことではありません。中国と西洋社会では、まず言語からして違うのですから。西洋社会で使われている言語にアルファベットがありますが、大抵どの国でも文章は横に一列に表記され「A」から始まり「Z」で終わります。日本の場合はもっと複雑で「あ」「い」「う」「え」「お」と縦に進み、「ア」「カ」「サ」「タ」「ナ」と横にも進む特殊なアルファベットを持っています。

ところが中国にはこのアルファベットに類するものが見当たらないのです。中国語の文字にはこうした順番というものが存在せず、始まりも終わりもありません。

そもそも文字に順番がないため、単語にも順番がありません。中国語においてはその全ての単語がセットになっていて、同様にどれが始まりどれが終わりということもないのです。いわば、全ての単語がそれぞれの存在を互いに主張し合うような一つの総合体として言葉を捉えているようです。これは中医学の考え方にも当てはまると感じました。

西洋医学は分析と分類

西洋医学においては各臓器を、例えば心臓だったら、循環器系に属する臓器で、そこには心室があって、その中に左心室があり、左心室には僧帽弁がある、というように人体を順序立てて細かく分類しながら見ていき、そこに病気の原因を探ろうと考えます。これはまさにアルファベットのように「A」「B」「C」「D」と一つずつ順番通りに並べていく作業に似ています。

しかし、中医学では、人間のからだを一つにまとめて見て全ての部分部分を同時に並行して見ようと心がけます。 人間のからだを一つの総合体であると考えているのです。からだの部分部分については順番をつけずに全身を総合的に見るのです。ゆえに中医学では大まかに内科・外科に分けられているくらいのもので、大体においては一人の医師がほとんど全ての種類の患者を診ます。 また、漢方でも薬を一種類だけ投薬するなんていうことはなく、総合薬として何種類かの薬を調合したカタチで投薬するのが一般的です。

左脳的な西洋医学と右脳的な中医学

私にとっては、西洋医学は左脳的で、中医学は右脳的というイメージです。どちらかが優れていて、どちらかが劣っているということではなく、どちらも人間にとって必要な医学です。ただ、からだに対する見方と疾病に対するアプローチの仕方が違うだけなのです。

けれども、私は中医学独特の生命観と、全体性を重んじる考え方がとても好きです。中国医学では、人間は大宇宙の中の一存在であり、人間のからだそのものが小宇宙でもあると考えています。中医学では、人間のからだを一つの総合体と見なしていますが、 同時に人間の存在を宇宙という広大な総合体の中に組み込まれているもの、いってみれば宇宙の一部分を構成するものとして位置づけています。 人間を宇宙に存在する他のあらゆるものたち…、例えば、太陽・月・星・風・雲・木・草・水・石・土・あるいは他の生命体などとの繋がりのもとに考えるのです。

やっつけるか?それとも追い出すか?

「人間のからだは大宇宙の一環であると同時に、それ自体が小宇宙である」

中医学のこの考え方は、人間の存在自体が自然そのものであるといっているようにも思われます。西洋医学とは異なり、人間のからだを内側に向かっても、外側に向かっても、空間的に大きな広がりをもったものとして捉えているわけです。何だか壮大な感じがしませんか?

それゆえ、病気に対する対応の仕方にも西洋医学と中医学では大きな違いがあります。それは「やっつける」か「追い出す」かの違いといえるかも知れません。

中国の歴史を遡ると、中国の民族というのは、漢民族を始めとして、そのほとんどがもともと農耕民族で、狩猟とは異なり、農業では自然に任せなければならないことが大部分で、人間はただ毎日を精いっぱいに働き、 後は自然が答えを出してくれるのを待たねばなりませんでした。中医学も同様にまず自然との調和を何よりも大切にします。 そして、もし調和を乱すものがからだの中に入ってくると、それを追い出して本来の調和を取り戻そうとして働きます。

殺傷するよりも予防することの大切さ

けれども、ココが重要なのですが、調和を乱すものであっても決してそれを殺そうとはしないのです。なぜなら、殺してしまうとかえって、後始末が面倒になるからです。中医学では、外からウイルスや病原菌などがからだの中に入ってきても、それを殺すよりも早く追い出す工夫をします。この意味において「中医学は排泄の医学」であるといえます。では、ウイルスや病原菌に早く出て行ってもらうためには、どうしたら良いのか?

…そうです。からだの中がいつもピカピカに磨き上げられて、自然治癒力が発揮されやすい状態にしておくことが必要ですよね。もし、スキがあったなら、ウイルスや病原菌に長く居着かれてしまいますから。中医学はからだの中にふだんから汚れがつかないように、もし汚れがついたとしてもすぐにそれを洗い流してしまえるように体内をきれいにしておく医学です。まさにここのところが「中医学は予防医学」といわれる所以です。

しかし、西洋医学ではこうした外部からのウイルスや病原菌に対して「悪者は殺せ!」といわんばかりにその息の根を止めようとするのです。これは「殺傷の医学」であるといえます。西洋医学には、ウイルスや病原菌などを対象とし、それらの活動を抑えるために投与される薬が多いのに比べて、中国医学には、人間のからだそのものを対象とし 、利尿や排泄促進の効果を期待して投与される薬が多いのもそのためです。

病原菌を殺すのではなく、追い出す。やはり、こうした全体性を重んじる中医学の発想には強く惹かれます。

 

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