はちみつで乳児死亡のニュースからメディア・リテラシーについて考える

暮らし

 

先日、離乳食としてはちみつを与えられた生後6ヶ月の男の子が、「乳児ボツリヌス症」により死亡したと東京都が発表しました。

男の子は、今年1月から市販のジュースにはちみつを混ぜたものを1日2回程度親から与えられていたそうで、その後2月16日に咳などの症状を訴え、20日に病院へ搬送されるも3月30日に死亡し、男児の便や自宅のはちみつからボツリヌス菌が検出されました。国立感染症研究所によると、乳児ボツリヌス症での死亡例は今回が初めてだということです。

ネットでは、この報道を受けて「0歳児にはちみつを与えるな」という警告を促す声が次々とあがっています。もともと人気のレシピサイトである「クックパッド」などにも「はちみつ入りの離乳食レシピ」は複数あがっていたようで、核家族の多い今の時代、新米ママさんたちは何も疑うことなく書かれた通りのレシピで離乳食を与え、子供さんに与えていたのかもしれません。

一般的にハチミツ、黒糖、キビ砂糖は精製されていない=非加熱のためにボツリヌス菌が死滅せずに混入する可能性があるため乳児に与えるべきではないというのが定説です。ネットでは「はちみつは加熱すれば、菌が死ぬから大丈夫」という記述がいくつも見つかりますが、ボツリヌス菌は加熱しても熱に強い芽胞状態なのでまだ免疫力の弱い乳児には与えるべきではありません。




■情報とメディア・リテラシー

現在、インターネットの普及で私たちはかつてない情報の洪水の中に生きています。そのおかげもあって私もこうして健康に関する記事を書かせていただき、みなさんにも読んでいただいているわけですが、情報について言えば、実社会もネット社会もどちらも玉石混交であることには変わりません。むしろ、ネット社会は自分で直接体験し、五感を通じて判断することができないためさらに注意が必要です。

真実もあれば嘘もある。また、100人の人がいれば、100人の異なる世界があります。 Aさんにとって良かったものが必ずしもBさんにも良いとは限りません。私の書いている健康記事だって嘘が混ざっているかもしれないし、私にとって良かったものがあなたにとっても良いという保証はないのです。

それでもこうして記事を書き続けているのは、一つには自分の文章修行のため、そして、書くことで自分自身の思考を整理するため、さらには自分の書いたものが時々どこかで誰かのお役に立てることがあるからです。

今、かつてないほどにメディア・リテラシーの重要性が叫ばれています。メディア・リテラシーとは、世の中にある数え切れないほど沢山の情報メディアを主体的に読み解いて必要な情報を引き出し、その真偽を見抜き、活用する能力のことを言います。それは情報の送り手、受け手の双方にとって必要なことであるのはいうまでもありません。

 

■ある読者さまとのやりとり

毎回私がブログに書いている記事は、自分が直接体験したこと、人から聞いたこと、書物やインターネットから学んだことが核となっています。しかし、それらは全て私という人間の思考や感覚のフィルターを通して言葉に変換されているので、もしかしたら対象となるモノゴトの本質から離れてしまったり、勘違いして全く別な風景を描き出していることだってあるかもしれません。

あるいは、情報の送り手、受け手の双方が全く異なる風景を見ている場合だってあるのです。意味やイメージを伝えることの難しさの一例として、以前こんなことがありました。

 

ごぼうの生のすりおろしが炎症に良いという記事を書かせていただいたことがあったのですが、その時、乳腺炎に著効がある「ごぼうし」についても紹介しました。

「ごぼうは〇〇の救世主?」

 

ごぼうしとは、「ごぼうの種のこと」で漢方でも古くから天然薬として扱われていて、これを煎じて飲むと乳腺炎が早く治ったり、喉に刺さったトゲがすぐに抜けたりするのです。

ある日、ブログの読者さまがこのごぼうしの記事をお読みになり、私が推薦する製品をネットで購入し、お家で煮出して飲まれたそうなのですが、そのあまりの苦さに驚嘆し、「良かったら治療院で使ってください」と言って持って来られたのです。

私はもちろんそれまでにもごぼうしを飲んだ経験はありましたが、まずいと感じたことはありませんでした。なので、もしかしたらそのごぼうしは不良品なのかもしれないと思い、その方が持って来られたごぼうしをそのまま引き取らせていただきました。

そして、その後、自分で湯を沸かし、煮出して飲んでみたのですが、意外にも以前飲んだものと変わりがありません。苦味は強いのですが、ひどい味というほどではなくむしろ私は好きなほう。このようにモノゴトは人により異なる評価が下されることがあるのです。

 

■情報を吟味してみる

ちょっと状況を整理してみましょう。この時点で、ごぼうしに対する認識が私と読者さまの二者間において次のように分かれます。

 

私の認識: 苦いがカラダに良く、特に乳腺炎やトゲ・体内の不要物の排泄に著効のある天然薬

読者さまの認識: 苦味が強くひどい味、カラダには良いのかもしれないが日常生活では使えない薬

 

一つのごぼうしに対する認識がこのように世界を二分するわけです。これはどちらが良いとか悪いとかいう話ではなく、このようにして世界は多様性をもち、個々の人生は展開してゆくのです。しかし、ここで考えられることがいくつかあります。

その記事には、私自身がごぼうの生のすりおろしで口内炎が良くなった経験から「生のごぼうは炎症に良い」ということも合わせて書いたのですが、もしかしたら読者さまは「ごぼうしがあらゆる炎症に良い」という風に捉えられたのかな?とも後で思いました。

もし体調不良の原因が体内の不要物にあったり、トゲが喉に刺さった時のお手当としてごぼうしを活用されるのならば良いのですが、授乳中でなく乳腺炎でなければごぼうしを無理に使われる必要はありません。単に炎症を鎮めるためなら、生のすりおろしごぼうのほうが手に入りやすいし、取り組みやすいと思います。

 

■情報を応用してみる

また、分量について言えば、記事では、「コップ1杯分の水と小さじ2杯くらいのごぼうしを鍋に入れ、水が半分になるくらいまで煮詰め、冷まして飲みます」と書いたのですが、これは乳腺炎の特効薬としてのレシピであって、成分的にかなり強いものであり、普通の人には苦く感じられるかもしれません。

しかし、若い頃胃腸が弱く苦い漢方薬慣れしてしまった私にとって、ごぼうしのそれはノーマルなレベル。「普通にうまいじゃん、これ!」って感じなのです。けれど、味覚というのも人によって感じ方が異なります。

ちなみに、このごぼうしも先に述べたレシピよりも使用するごぼうの種の割合を少なくして煮出せば、少し前に流行ったごぼう茶みたいな風味を楽しめるドリンクとして飲めなくもないかなと思います。

そのあたりを加減しながら応用していけば、先の読者さまにとっても、ごぼうしは「苦いがカラダに良く、特に乳腺炎やトゲ・体内の不要物の排泄に著効のある天然薬」として暮らしに役立つものとなったのではないかと思うのです。

このようにインターネットという限られた世界では、リアルな体験に比べ、情報の送り手も、受け手も、ゆっくりと細かく正確にその対象について伝え捉えることがとても難しいと実感しました。

 

 

<内線連絡>

ごぼうしをくださった〇〇さん、その節はありがとうございます!いただいたごぼうしは、乳飲み子のいらっしゃるクライアントさんに時々お分けしたりして今も大切に使わせていただいています。

 

■下村健一さんの伝えるメディア情報との付き合い方

元TBSのニュースキャスターで、メディア・リテラシーの専門家である下村健一さんは、私たち現代人が情報を受け止めるときに大切にしてほしいスイッチが4つあると言います。それは次のようなもの。

 

①「事実かな?印象かな?」

②「他の見方もないかな?」

③「何がかくれているかな?」

④「まだ分からないよね」

 

下村さんは、小学生を相手に情報についての授業を行っているのですが、その中で②のスイッチである「他の見方もないかな?」について、子どもたちに紙芝居を見せながらある問いかけをします。それは「順序を入れ替える」というテーマを持ったこんな内容です。

 

光村図書のサイトから〜

 

授業で『他の見方もないかな。』の考え方を説明するときに,いつも使っている絵があります。それが,次の2枚。これを「たった2枚の紙芝居を見せるよ。どんな物語だと思う?」と言いながら見せるんです。

A:人が走っている絵→犬が走っている絵

B:犬が走っている絵→人が走っている絵

Aの順序を入れ替えたものがB。AとBからは,どんな物語が読み取れるでしょうか。

Aは,人が走っている絵→犬が走っている絵の順序。大部分の子どもたちは,「人が逃げていて,犬が追いかけている」と答えます。それに対して,Bは,犬が走っている絵→人が走っている絵の順序。「どんな物語?」ときくと,「逃げた飼い犬を,飼い主が追いかけている」と,多くの子が口をそろえて答えるでしょう。

たった2枚の紙芝居でも,見る順序によって,受け取る物語のイメージは一変する。それを受けて,「普段見ているニュースは,もっとたくさんの情報が,ある順序で並べられて伝えられている。もしかすると,その順序によって,君は物語のイメージを決めちゃっているかもしれないね」と話します。「だから,新しい情報に出会ったときには,この紙芝居を思い出して,『待てよ,並べ方を変えたら,他の見方もできないかな』と考えてみてね」と。

〜引用終わり

 

ネット社会には、実にさまざまな情報が行き来しています。その中にはある意図を持って送り出される情報もあるわけです。便利で何でも手に入る世の中だからこそ、逆に混乱をきたしたり、問題を生み出すこともあるのです。昔は何かを手に入れるには膨大な時間とエネルギー、そして何より手間が必要でした。

現代人は私自身も含め、あまりの便利さを享受してしまったがゆえに、その「手間をかける」ことの大切さを忘れてしまったように思います。

情報洪水のこんな時代だからこそ、情報の送り手は、しっかり時間をかけて検証した事実を、受け手を混乱させることのないようわかりやすく伝えるために努力すべきだし、受け手も、情報の真偽について、また必要性について、自分の経験や感性に照らし合わせて自分自身で考え、自らの責任において取捨選択するという態度が必要だと感じます。

 

ネット情報のレシピによるはちみつ入り離乳食で乳児死亡。

この事実は大変重く悲しいことですが、このお子さんの死を決して無駄にしないためにも、ネット社会に生きる私たち一人ひとりが情報の受け手であり、送り手となることも踏まえた上で、あらためてその正しい向き合い方と使い方について考えるべきであると痛感しています。

 

 

 

⭐️ 下村健一さんが書かれた本書は、子供や若者のみならず、情報に関わる全ての人に読んでほしい。ネット上の無数の情報をどう受け取り、どう届けるべきなのか?そこのところをとてもわかりやすく面白く書かれています。情報社会における市民一人ひとりの倫理の問題、それを支える教養教育の必要性についてなど、ネットユーザーの考えを大きく広げる視点がいっぱい。現代を生きるための実践ガイドブックです!

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