追悼・女優 真屋順子さんの思い出①

心と体

 

どうも昨年父が亡くなったあたりから「死」について考えることが多い。

つい先日も女優の真屋順子さんが逝去されたことをニュースで知った。日本女性的な美しさを兼ね備えた大好きな女優さんだった。

私がまだ小学五年生だった頃、たった一度だけ、真屋さんから頭を撫でてもらったことがある。そして、あの優しい微笑みと温かな手の感触を今でもはっきりと覚えている・・・

 

●在りし日の真屋順子さん 

*画像はExisiteニュースよりhttps://www.excite.co.jp/News/entertainment_g/20180105/Gendai_434503.html




■戦後、キラ星のごとく現れたお笑いのスター

昭和40年代から60年代にかけての日本。

日本人が敗戦のショックからようやく抜け出し、高度経済成長を経て物質的繁栄と経済的成功を享受し始めた時代。この国にはコメディアン萩本欽一(通称・欽ちゃん)が創り出す底抜けに明るい笑いの世界があった。私が初めて欽ちゃんを目にしたのは、テレビのブラウン管の中だった。

同じく浅草芸人出身の坂上二郎(通称・ジローさん)とのコンビによる「コント55号」。

二人のコントを見た時、衝撃が走った。それまでのお笑いは、漫才や落語などのように話芸が中心で動きが少ないものが主流だった。ところが、舞台をところ狭しと走り回る二人のテンポとリズムが新鮮で、そのやりとりがお茶の間を怒涛のごとく笑いの渦に巻き込んでいった。

今思えば、浅草芸人特有の下町人情や長い下積み時代が見え隠れする芸風に加え、スピード感溢れる動きのあるコントにまだ幼かった私は笑いの世界における「新しい波」の気配を感じ取っていたのだと思う。

 

■昭和のオバケ番組となった『欽どこ』

その後、ソロとしての活動が主流になっていった欽ちゃんは、さらに人気を加速させ、次々に高視聴率を稼ぐ人気番組を自ら企画し出演していった。『スター誕生!』の司会、そして『欽ちゃんのドンとやってみよう!』、『欽ドン!良い子悪い子普通の子』など冠番組が目白押しで、およそテレビに欽ちゃんが出演しない日はないほどの活躍ぶりだった。

いつしか欽ちゃんは、この国における押しも押されぬ国民的人気コメディアンの地位を不動のものにし、当時小学生だった私にとって憧れの人となっていった。

その頃、同年代の男子にとって憧れの存在といえば、ジャイアンツの王貞治選手がいた。しかし、カラダが小さく、ずば抜けて運動神経が優れているわけでもない私は、早々に野球選手の夢を諦めた。代わりに、お楽しみ会で私が台本を書き、仲良しの友人とコンビを組んで演じたコントがクラスで大ウケしたのに味をしめ、お笑いの世界へと進路変更したのだった。

寄席からテレビへと芸人が活躍の場をシフトしたその時代にあって、お笑い界のキングともいうべき欽ちゃんを私が憧れの人とするのも当然の帰結だった。そんな欽ちゃんの看板番組の一つが『欽ちゃんのどこまでやるの!』(通称・『欽どこ』)だ。

欽ちゃんと、当時すでに実力派女優であった真屋順子さんが夫婦という設定で公開コントを繰り広げるこの番組。のちに見栄晴やのぞみ、かなえ、たまえらの子供が誕生し、三つ子の姉妹ユニット「わらべ」が歌った曲が大ヒットするなど社会現象を巻き起こし、最高視聴率40%という大記録を打ち立てる伝説の番組となった。

 

 

●『欽ちゃんのどこまでやるの!』テレビ朝日系 

*画像はスポーツ報知よりhttp://www.hochi.co.jp/entertainment/20180105-OHT1T50231.html

 

■真屋さん人気の陰に欽ちゃんの演出あり

欽ちゃんのすごいところは、コメディアンとしてだけでなく、演出家としても優れているところだ。

当時お笑いの世界とは無縁であった演歌歌手や俳優、それに素人や視聴者を出演者として番組に取り込み、彼らの魅力を上手に引き出して人気者にしてしまう名人だった。女優の真屋順子さんもその一人だ。

その頃すでにサスペンスドラマで演技力を高く評価されていた真屋さんだったが、人気絶頂だった山口百恵の敵役ということで一般視聴者から強い反感を買い、長くそのことで悩んでいた。

しかし、それを聞いた欽ちゃんが「では、君を日本一良いお母さんにしてあげよう」と、真屋さんのキャラを設定・演出し、子供たちを誕生させて母性豊かな役柄を演じさせたのは有名な話だ。その頃の私くらいの年頃の子供なら、きっと理想の母親像に『欽どこ』で真屋さん演じたお母さんを思い描いたことだろう。

この番組の熱心な視聴者の一人であり、大の欽ちゃんファンであった小学五年生の私はある時、真剣にこう決心した。

「欽ちゃんに会って弟子にしてもらい、欽ちゃんファミリーの一員にしてもらおう!」

人間の強い思いというものは、本当にモノゴトを動かす大きな力になるのだと思う。なんと、しばらくして、その決心を欽ちゃんに直接伝えるチャンスが巡ってきたのだ。

 

■入り口で入場禁止という悲しみ

北の都・札幌。私の暮らすこの街に「 Boys be ambitious!」で有名なクラーク博士像の立つ羊ヶ丘展望台がある。実家からは歩いて数十分のところで、私にとってこの場所は、虫を採ったり、ミニスキーをしたり、昔から大好きな遊び場だった。

真冬のある日、私の耳に思いがけないニュースが飛び込んで来た。あの欽ちゃんファミリーが明日羊ヶ丘展望台にやって来て、そこで『欽どこ』の生中継をするというのだ!

「あの憧れの欽ちゃんに会える!!」

私の胸はこれ以上ないほどに高鳴った。中継当日、私は学校から帰宅してランドセルを居間に放り投げると、母が用意してくれたおやつに手をつけることなく一目散に展望台へと向かった。

その日は、鼻水も凍りそうなくらいに凍れた日だった。にも関わらず、展望台の入り口には人気者の欽ちゃんと真屋順子さんを一目見ようと黒山の人だかりができていた。私が近づいてみると、ディレクターらしき男性が拡声器を使って集まった人々に謝りながら説明していた。それに対して人々はいたる所で不満の声をあげていた。よく聞けば、ディレクターらしき男性は次のように言っていた。

「ここから先はテレビ中継のため、本日一般の方は入場をお断りしています。寒いですから早くお家に帰ってテレビでご覧になってください!」

「それはないだろう!」その時、私の心が叫んだ。

あの憧れの欽ちゃんがすぐそこまで来ているというのに。しかも、私の遊び場である羊ヶ丘展望台での中継だというのに。これじゃあ、なんのために今まで生きてきたのかわからないじゃないか。私はとても悲しくなった。しかし・・・

「こうなったら、絶対欽ちゃんに会って帰ってやる!」再び私の心がそう叫んだ。

 

■捕らわれの小学生

とその時、私の脳裏に名案が浮かんだ。

周囲をぐるりと背の高い鉄柵に囲まれた羊ヶ丘展望台ではあったが、森の奥に一箇所だけ子供一人がようやく通れるくらいの穴が開いていたことを思い出した。そこに行けば、きっと中へと容易に侵入できるに違いない。私は人だかりを避けるようにしてその秘密の穴へと向かった。

すでに日は暮れ、森はしんとして真っ暗だったが、用意してきた懐中電灯を片手にひるむことなく雪原を漕いだ。長靴の中には大量の雪が侵入していて冷たさを感じ始めていたが、穴探しへの情熱がそれに勝った。やがて記憶していた通りの場所に穴を見つけた私は小躍りしたい気持ちを抑えてその穴をくぐった。

視界が開け、目の前にはロッジを背景にしたおなじみのクラーク博士像がシルエットになって立っていた。私が歩いてそれに近づくと、突然どこからともなくスポットライトが点灯し、ロッジからアノラックを身にまとった数名の人物が現れた。

それこそが憧れの欽ちゃんと、そしてお母さん役の真屋順子さんだった。私は興奮を抑えきれず思わず大声で叫んだ。

「欽ちゃ〜ん!!順子さ〜ん!!」

すると、どこから現れたのか背の高い大人たちがものすごい勢いで走り寄ってきて、私は彼らに背後から羽交い締めにされ、猿ぐつわをかまされた。ビジュアル的に説明するならば、それはまるで、昔少年向けのミステリー本に掲載されていた「捕らえられた宇宙人」みたいな状況だ。

 

●捕らえられた宇宙人の画像

 

■そして、生中継は始まった。

「君、どこから入って来たんだ!」

「今、これから中継始まるんだから、声出しちゃダメだ!!」

二人のADらしき男たちが執拗なまでに人差し指を私の唇の前に突き立て、無言でいることを強要した。「どうしても欽ちゃんに伝えたいメッセージがあるのでそれを伝えに来たんです」と涙声で説明すると、男の一人はこう言った。

「坊や、わかった。今本番に入るからお願いだから静かに見ていてくれ。中継が終わったら必ず欽ちゃんに会わせてあげるから、それまで大人しく待っていること。いいね」

この後、私は寒空の下、『欽どこ』の札幌生中継を最も出演者に近い場所からスタッフとともに注視することになる。

 

なにやらいつものブログと違う雰囲気ながら、この項、さらに次回へと続く・・・

 

 

 

●懐かしい『欽どこ』の一場面。欽ちゃんと真屋さんの夫婦コンビは永遠だな・・・

 

 

 

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