これからの季節の楽しみは、なんと言っても「食」にあります。
寒い季節にカラダを芯から温めてくれる鍋料理や、温かいコタツに入って食べるみかん、プリプリに脂ののった魚たち・・・美味しいものには事欠くことのない季節。
「ああ、四季のある日本ていいな。日本人に生まれて良かった」
そう感じる瞬間が食卓に多くなる晩秋から冬。私はこの季節が大好きです。これから出回る旬の食材の中でも、私が最も楽しみにしているのが「里芋」。
あの独特の粘りと柔らかさ、そして控えめな甘み。さらには、自分を主張しすぎない謙虚な佇まいに、素朴さを身にまとったような皮の色。里芋のそんなすべてに私はある種の「人格」さえ感じます。
もはや、里芋は私にとって単なる野菜なんかじゃない。実はここだけの話、私は密かに「里山芋子(さとやま いもこ)」と名前をつけて里芋を偏愛しているのです。芋子を一口含めば、その優しい味わいとともに、私のカラダの中にえも言われぬ滋養がしみ出してくるのです。
芋子は決して世間で思われているほど無教養な田舎娘なんかじゃない。人の健康に役立ちたい一身にその身を捧げる芋子の姿に私は献身的な愛さえ感じます。丸みを帯びたその輪郭に、かつてクリミア戦争で傷ついた負傷兵たちにカラダを張って救護にあたった看護師フローレンス・ナイチンゲールの姿を重ねてしまうのです。
●フローレンス・ナイチンゲール(1820-1910)
そんな芋子の献身的な愛は、かつて医療設備が十分でなかった頃のこの日本でも、ナイチンゲールよろしく多くの病める人々を救いました。それゆえ、その薬効の素晴らしさから、長く「いもぐすり」と呼ばれ親しまれてきたのです。
今回は、そんな芋子の秘密をあなたにそっと明かします。
里山芋子のふるさとはアジア。主にインドからインドシナ半島にかけての温かな地域。少なくとも紀元前3000年頃にはそれらの地域で栽培されていたようです。やがてフィリピン、ミクロネシア、ポリネシア、オーストラリア、ニュージーランドなど太平洋一帯に広がって行きました。現在でも「タロイモ」として多くの民族・地域で大切な主食となっています。
日本への渡来については、はっきりした記録がありませんが、稲が大陸から渡ってきたよりももっと古いようです。日本で稲作が始まったのは弥生時代。しかし、その前の縄文時代には焼き畑農業が行われており、その中心作物は里芋でした。タロイモ類の中でも最も北方の気候風土に適したものが里芋として残ったのです。
なんと芋子は稲作以前の古代日本民族の主食だったというわけです!芋子、すごいぞ!
あの『万葉集』にも、芋子が登場する和歌が存在します。それはこんな歌。
蓮葉(はちすば)は かくこそあれも おきまろが いえなるものは 宇毛之葉にあらし
長意吉麻呂(ながのおきまろ)
訳は次のようになります。
「蓮の葉は、きっとこのような葉のことをいうのだろう。我が家にあるのは、どうも里芋の葉みたいだ」
この歌、どうやら他人さまの美しい夫人を蓮の花に例え、自分のブサイクな妻を里芋に例えたものらしいのですが、それを知った私は怒り心頭に発しました。
「長意吉麻呂のやつ、一体、芋子をなんだと思ってるんだ!」
もし、私が奈良時代に生まれていたなら、間違いなく長意吉麻呂に一言物申していたと思います。だって、芋子のことを馬鹿にするなんて許せない。なぜなら、これほどまでに日本人と関係が深く、なおかつ色々な症状に効く野菜もないのですから。なんて言ったって、「いもぐすり」なんですから。
里芋は誰にでも見分けがつくと思うのですが、では里芋の仲間の区別となると、ちょっと難しいようです。というのは、里芋の種類というのは実はとっても多いんです。一体どれくらいあると思いますか?
それが想像以上に多いんです!
世の中に存在する里芋の種類、なんと、およそ200種類!
その種類を細かく見分けるなんて、素人の私たちには大変なことです。代表的なものをあげれば、八頭(やつがしら)、土垂(どたれ)、赤芽(あかめ)、えび芋、たけのこ芋・・・あなたが聞き覚えのないものもきっとたくさんあるはずです。
しかも、里芋の皮は食べる事ができます。皮が付いた状態で里芋を食べる機会があまり多くないので、皮は食べられないものだと考えている方も多いと思います。しかし、栄養も豊富に含まれていて食べなきゃ損です。ただし、食べる場合はしっかりと表面を洗いましょう。表面の皮には、農薬が残っている事があります。洗わずに食べると良くありません。しっかりと洗えば農薬は取れます。
芋子に含まれる成分の何が良いかって、里芋にはガラクタンという成分が豊富に含まれています。あのぬめり成分がそれです。このガラクタンは、脳を活性化させる効果が期待ができます。それゆえ、お年寄りの認知症などの予防に有効とされています。とても柔らかな食感なので、固い物がなかなか噛めないお年寄りにも食べやすいのがありがたい。高齢者は脳の病気に罹りやすいので、積極的に摂取する事が健康寿命を延ばす上でとても役に立ちます。
ガラクタンには血圧を下げる効果もあります。加工品や西洋料理が普及した現在、塩分の高い料理が多く、それらの摂取が高血圧の原因になっていると考えられます。そのため、ふだんから血圧の安定のためには過度な塩分摂取を控え、塩分を抑える食べ物を取る事は大事だと考えられます。そんな食材として芋子はうってつけの食材と言えます。
炎症を抑えるには、芋子を常食すると良いです。特に味噌汁にして飲んでいると、慢性の気管支炎やたんを抑えるのに効果があります。
腸の働きを整える効果がありますから、常に芋子を食べていれば便秘の解消に効果があります。それは、芋子の糖質とたんぱく質が一緒になったぬめりに含まれるムチンが働くからです。これは消化吸収をも助けますから、消化を促進し、便通を整えます。便秘に悩んでいる人は、調理する時、このぬめりを取ってしまわず、含め煮、酢の物、田楽、煮ころがしなどに調理してしっかり常食するようにしましょう。
芋子の数ある効果の中でも炎症に対する消炎、鎮痛効果は抜群です。芋子は老廃物や毒素を吸着する力に優れ、熱のある炎症、打撲、捻挫の腫れ感をともなう痛みや、のどの炎症、歯痛、やけどや肋膜炎、リウマチの痛みなどにも効果があるのです。症状によっては市販の湿布薬よりも早く痛みや腫れが改善します。それでは、材料と方法についてお教えしましょう。
■里芋パスターの作り方
*材料:・里芋 適宜 ・生姜 里芋の1割 ・小麦粉 里芋と同量 ・塩とごま塩 少々
①里芋の皮を厚めにむいてボールの中でおろし金ですりおろす。
②それに生姜をおろしたものと塩を混ぜ合わせる。
③そこへさらに小麦粉を混ぜ、粘りをつける。
④患部がかぶれるのを防ぐために、あらかじめ患部にごま油を薄く塗っておく。
⑤出来上がったペーストをガーゼに1センチ位の厚さに塗って患部に貼り付け、包帯などで固定する。
⑥4〜5時間経ったらはがして新しいのに貼り替える。
この薬効は一度体験してみればわかります。その鮮やかなまでの回復の早さと治癒までの経過はまさにいもぐすり。あなたも炎症に見舞われた時にはぜひお試しください。
いかがでしたか?ここまで芋子の優れた点について並べあげれば、いかに私が芋子を愛しているかということがあなたにも伝わったと思います。
え?芋子の良いのはわかったけれど、あの独特の触った時に起こるかゆみがかなわないですって?
確かに、人によっては芋子にかゆみを感じることがあるかもしれません。かゆみは芋子に含まれるシュウ酸カルシウムの結晶によるものなんです。でもこれは案外簡単に取り除くことができるので、ぜひ覚えておいてください。かゆみは酢、塩、重曹で取り除くことができるのです。これらを手につけるとすぐ取れます。もし少量で治らない場合は多めにつけてみてください。
クセをわかってつき合えば、芋子ほど美味しく役に立って、季節を感じさせる野菜はありません。そうとわかったら、早速、スーパーで芋子を購入すべし。これからはあなたも私同様、里山芋子ファンクラブの一員として、彼女を末長く可愛がってくれることを願っています。
*2017年11月20日追記
ある方から本記事内容についてのご指摘をいただき、訂正させていただいたものを新たに記事にいたしました。合わせてお読みいただけると芋子に対する認識をより深めていただけるものと思います。
⭐️ 例えば、あなたは「めまい」を克服する料理を作ることができますか?この本はそれを具体的に教えてくれるんです!中医学の食養生の柱「陰陽五行」の世界観がベースとなった食材を和食に応用した鉄板レシピ。著者は東京薬膳研究所主催の食養生のプロ武 鈴子(たけ・りんこ)氏。あなたも知らず知らず美味しい料理とともに薬膳や漢方の基本をしっかりと身につけることができます。この本は、なんていったって買いの一冊です!
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コメント
照会(みと・あかつかカンファレンス)
学術秘書
池田です。
「ムチン」、「ガラクタンは、脳を活性化」と記述する根拠についてご教示くださいますようお願いいたします。
※参考
[1]デジタル大辞泉:
ムチン(mucin)
動物の上皮細胞・粘膜・唾液腺などが産生する粘性物質の総称。糖たんぱく質の一種で、アミノ酸がつながったポリペプチド鎖に糖鎖が枝状に結合した構造をもつ。
[補説]オクラや山芋などに含まれるぬめり成分もムチンと呼ばれることがある。これは高分子の多糖類とたんぱく質が結合したもので、動物の粘液に含まれるムチンとは異なる。
https://kotobank.jp/word/%E3%83%A0%E3%83%81%E3%83%B3-140618
[2] 丑田公規「クラゲの有効活用の限界とムチンの化学」『化学と教育』Vol. 65 (2017) No. 5 p. 228-231:
ムチンという化学物質については,一般人のみならず専門家の間にも誤った情報や呼称が広がっている。そこで,一般の化学教育に携わっている方に正確な情報をていねいにお伝えするため本稿を執筆することにした。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/65/5/65_228/_pdf#page=3
※ガラクタン:
サトイモの粘性物質、「ガラクタン」がヒトの脳に作用するという情報がありますが、
それらはすべて、ガラクタンとヒトの母乳に含まれる「ラクトース(乳糖)」とを混同した、いわゆる「とんでも説」です。
ガラクタンは(加熱)調理してもヒトの体内でも、その構成糖であるガラクトースに分解されることはありません。
http://jeanne.jp/mextgo.html
では。
この件に関するお問い合わせ先:
みと・あかつかカンファレンス事務局長
ラクトース研究班「いもいち2025」班長代理
有限会社学術秘書
本店営業部
池田剛士
〒311-4141
茨城県水戸市赤塚1-386-1-107
電話:029-254-7189
携帯:090-4134-7927
池田様
初めまして。紳士的、かつ大変ご丁寧なご指摘ありがとうございました。コメントを読ませていただき大変勉強になりました。
お返事の意味も込めて、新たに記事を書きました。お読みいただけると嬉しいです。
https://uchunotane.com/health/2017/11/20/post-10341/
これからも何かありましたら、ご指導のほどよろしくお願いいたします。
noahnoah 拝