座っている人を起こすのに強い力は要らない

老いと介護

 

前回、理に適った動作は安定感があり、見た目にも美しいという記事を書きました。しかし、理に適った動作の利点はそれだけではなく、同時にそこから生み出されるパワーだって何倍にも増大するのです。

それもやはりポイントとなるのは意識をどこに向けるか、なのです。例えば、重いものを持ち上げなければならない時や、運ばなければならない時、そのことを知っているのと知らないのとでは随分と労力が違ってきます。

現在の日本は高齢化が進み、暮らしの中で誰もがどこかで介護と関わり、年配者のお世話をする機会も増えています。例えば、寝ている人を抱き上げる、手を引く、カラダを支えてあげる、なんていう時にその動作のコツを知っていれば、無理なく安全に動かすことができます。そんな介助についての話です。

 




 

 

座っている人を起こすには

例えば、あなたが、床や椅子、ベッドなどに座っている人の手を取って起こさなければならない場面があったとしましょう。あなたならどんな点を意識してその人の手を取りますか?

人の体重は重いもの。ゆえに相手の手に触れる前から気持ちが身構えて緊張してしまい、思わず強く手を握ってしまったりしませんか?

もし強く握れば、相手のカラダは実際の重さ以上により重く感じられてしまうに違いありません。というのも、握る力は強い力なので、その力を受け取る相手のカラダをも緊張させてしまうことになるのです。

緊張は相手のカラダの自然な動きを妨げ、そのままの姿勢を無理に保とうと働きます。それが想像以上の重さを生み出すもとになってしまいます。

 

しっかり掴もうと力めば益々重くなる

相手の手を強く握ったあなたは、相手のカラダから重さと固さを感じます。それでも無理に持ち上げようとすれば、上半身に力が入ってより苦しい状態でさらに相手を引っ張ろうとするでしょう。それで必然的に自分の両肩は力んで上に持ち上がります。

そうなるとクッションやスプリングの役割をしている肘の柔らかな動きが使えません。結果、無理に力と勢いで引っ張り上げねばならず、腕、肩、腰に多大な負担をかけてしまうのです。

けれども、腕の力だけで50kg以上もある大人を持ち上げるのは大変なことです。だからといって強く勢いで引っ張ろうとすれば、引っ張られる側のカラダもさらに緊張して引く方と引かれる方の力がぶつかり合ってしまうのです。

 

どうすれば楽な動作ができるか?

今までお伝えしたようなカラダの使い方をして、多くの方が介助中にカラダを傷めてうちの治療院に来院されます。では、どのような点に注意すれば不意のケガを防ぎ、もっと楽に動作ができるようになるのでしょう?

そのコツについてお話します。

①相手の手を強く握らない

まずこちらの気分をリラックスさせ、相手の手には軽く触れます。できれば、手首のくぼみの両端をこちらの親指と人差し指で挟み込むようにして柔らかく持ちます。この時、相手のもう一方の手を引っ張られる方の腕に添えておくとカラダのまとまり感が出て引っ張りやすくなります。

②相手にもこちらの手首を軽く持ってもらう

こちらが相手の手首を挟み込むように軽く掴むと同時に、相手にもこちらの手首を挟み込んで掴んでもらいます。そうすると、引っ張った時の重量がかなり軽く感じられるのです。そしてこちらは相手の腕を下から支えるようにして前腕を取り、自分の体重をのせてカラダ全体を使って引き起こしの動作に入ります。

これは踵側に重心を載せて立った方が理に適っている為、自ずと安定感が出てくるのです。さらに理に適った動作、姿勢は他者から見ても自然と背筋がスッと伸びて美しく見えるものです。

③後ろ歩きするようなイメージで後方に移動する

 相手が立ち上がりかけたら、手を引きながら相手の動きに合わせて後ろ歩きするようなイメージで後方に一歩、二歩と後退りしながら移動します。この時、相手には決して急な力や強い力を伝えずに終始柔らかな動きを心がけること。このようにすれば、無理なく座っている人を起こすことができます。

 

カラダはまとまれば軽くなる

あなたは、今まで子供をおんぶした経験がありますか?

私は、わが子もそうですが、兄弟が多い家庭に育ったため、小さな弟たちを親代わりによくおんぶしたものです。その時に気がついたのは、二人のカラダがぴったりと寄り添い、ひとつのものとして感じられるような時には相手を軽く感じることでした。

こちらがリラックスして一体感を感じている時は、相手もまたリラックスできて気持ち良さが生じるものなのです。そんな時は、決まって子供たちも弟たちもスヤスヤと寝息を立てて眠ってしまうのです。そこには緊張とか、強い力といった要素が微塵もありません。

逆に、相手がバタバタ動いていたり、二人の動きそのものがギクシャクしている時には重さが倍以上重く感じ、お互いに不快な感情を共有することになります。

「まとまる」とは、とどのつまり、相手と自分とが一体になることに他なりません。自分という意識をいかに薄めて相手の身になって感じられるか、というセンスが鍛えられます。座っている相手をいかに楽に起こすかというテーマには、人間同士の関係性改善や自分自身のより良い生き方を考える上でのヒントがあるように思います。

 

 

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