白隠禅師の健康法③
・・・前回からの続き、いよいよ<最終章>です。
「その軟酥の法とは、どのように行えば良いのですか?」
「ううむ。その軟酥の法とは・・・・」
白幽先生が、白隠禅師に語り始めます。
「まず始めに、酥(そ)というものを思い描くのじゃ」
「酥ですか・・・」
「酥じゃ。それは、牛の乳を煮詰めて作ったバターのようなものじゃ。良い香りのするもので、清い色をしておる。柔らかく、鴨の卵位の大きさで、触ると温かく気持ちの良いものじゃ。思い描いたか?」
「はい。」
「次に、それを自分の頭の上にそっと乗せる。優しく乗せるのじゃぞ。」
「はい。乗せました。」
「では、わしの言う通りに想像してごらん。その酥が体温によってとろーり、とろーりと溶け出してくる。そして、何とも言えない良い香りとともに、ぽたーり、ぽたーりと体中にしたたり始めるのじゃ。その温かくて気持ちの良いこと。まるで、生きて極楽とはこのことかと思うほどじゃ」
「はい。想像しています・・・」
「酥はゆっくりと、頭全体を浸し、首を浸し、肩を浸し、とろーり、とろーりと胸から背中に溶け出してくる。酥がしみ込んだ場所は、どこもかしこも完全に癒される。五臓六腑の気のとどこおりや痛み、体内毒素がすべて洗い流されてゆく。それから酥は腰を伝い、両脚を浸し、最後は足の裏に至ってついにとどまる。」
「続いて、こう想像しなさい。この酥が全身を浸している様子は、世界中の良薬を集めて風呂をわかし、その中にどっぷりと体を浸しているようなものであると。こう想像すれば、心身壮快となり、さらにこれを続ければ、どんな病でも完治するであろう。」
「・・・何だか、楽になって力がみなぎってきました。」
「そうじゃろう。実はこの私も、幼い頃病弱で、ある時、重い病をわずらったが医者に見放され、神仏に祈れど効果はなかった。ところが幸せなことにこの軟酥の法を知り、心を込めて精進したところ、ひと月足らずのうちにすべての病が消えてしまったのじゃ。」
「その後は、何もかも忘れて修行に励み、自分の年が今何歳かも知らない。ある頃から山に隠れ、何十年かが過ぎた。やせ衰えた体に粗末な布をまとっていても冬も寒さに負けず、食事をろくにとらずとも飢えることはなかった。それもすべて内観の法とこの軟酥の法のおかげじゃ。さあ、私はもう大事なことをすべて語りつくした。この他に何も言うことはない。」
そう言うと白幽先生は目を閉じて沈黙しました。白隠禅師は涙をぬぐって礼を言い、その場をはなれました。
夕暮れ時、禅師が下山の途についていると、誰かの足音が背後からせまってきます。振り返れば、白幽先生が岸壁を出て、わざわざ見送ってくれているではないですか。
下駄を履いて、杖をついた先生は、道に迷うといけないから案内しようといって高い岩を越え、けわしい山を先にたってスイスイと登っていきます。
ある渓流まで来た時、この流れに沿って下れば、白川の村に着くだろうと言い残し、名残惜しげに去っていきました。その後ろ姿はまるで羽が生えたように軽やかでした。
寺に帰った禅師が、言われた通り法を行じてみると、2年経たないうちに病気は自然と消えてしまいました。それだけではなく、難しい禅の公案もたちまち悟り、体力も回復し、厳寒の冬も炉にあたらずとも裸足でいられるほど丈夫になったのです。
・・・・と、これが、白隠禅師が一通り弟子たちに話して聞かせた健康法のすべてです。禅病にかかった弟子たちが実践してみたところ、やはり、すべての弟子が病を克服しました。
これらの話は、「夜船閑話(やせんかんな)」という禅師が書いた本の中に書いてあります。この本は当時、全国で読まれ、ベストセラーになりました。同時代、活躍したお坊さんに良寛さんがいますが、彼が友人に宛てた手紙が今でも残っていて、そこには、「白隠禅師の健康法は素晴らしい。自分も長く体調を崩し、試してみたところ、以前よりずっと元気になった。あなたもぜひやってみるべきだ」と書かれています。
禅師の健康法は、日本におけるイメージトレーニングと呼吸法のルーツといえるでしょう。今やイメージトレーニングはスポーツ界や実業界にもなくてはならないものとなっています。禅師は、人のココロがからだに与える影響を誰よりも熟知し、健康改善に活かしたのです。
禅師について書かれた本はたくさんありますが、私のおすすめは、直木公彦さんの書かれた「白隠禅師―健康法と逸話」。
著者は設計技師なのですが、長く肺病を患っていた時に禅師の健康法に出会い、実践してみたところ良くなり、それだけではなく、瞑想中にイメージの中に禅師が出てきて「喝っ!!」と一喝されてからは、物凄くひらめきが起こるようになったのです。
もうすでに他界されていますが、生涯になんと350以上の建造法の特許をとられています。健康もアイデアもすべては、禅師の健康法に出会ってからということ。彼の本では、「夜船閑話」の原文なども紹介され、禅師の人柄と活躍した時代の空気が感じられて、研究書としても申し分ないです。何度読んでも、新鮮な感動があり、噛めば噛むほどに味の出るスルメみたいな本です。興味ある方は、ぜひご一読下さい。
古今東西の健康法の大家は、皆、例外なく大きな不幸や大病に見舞われているものです。ピンチはチャンスというけれど、苦しくて辛い時こそ、人は大きく飛躍できる可能性を内包しているものなのです。夜明け前、お日様の出る直前に闇が最も深くて暗いように。
お伝えしたいことはまだまだありますが、白隠禅師のお話は、これにて終わり。このブログを読まれた方が、少しでも禅師に興味を持って下さったなら嬉しいです。
さて最後に、質問です。
あなたは、もし道を歩いていて、すれ違った人に、「あなたの好きなお坊さんは誰ですか?」と尋ねられたなら、何と答えますか?
「それは、白隠禅師です」
そう答える人がこの国に増えてくれたら、嬉しいです。
・・・でも、そもそも、
通りすがりの人に突然そんな質問されたら怖いですよね。(笑)
★何度宣伝してもしたりない!この本は、噛めば噛むほど味の出るスルメのような本です。白隠禅師の原文にも触れられます。禅師に興味ある人はぜひ!必携です!
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