糞土思想〜のぐそを哲学する男

暮らし

 

前回カレーについての記事を書いたからというわけではないんですけどね、今回は「のぐそ」についてお伝えします。漢字にすると「野糞」です。

「のぐそ」と「野糞」。

こう比べてみると、同じ言葉でもひらがなと漢字では、見た目の印象って変わってきますね。あなたはどちらが好きですか?

私は、よりマイルドでファンタジックなムード漂う「のぐそ」のほうが好きです。「野糞」と書くと、どこかこう荒々しくて暴力的な感じがしませんか? なので「のぐそ」に統一して書き進めていくことにしますね。

もしも、この現代日本に自然保護の立場からトイレットペーパーを一切使わず、そして水洗トイレも使わず、ただひたすら草原で日々のぐそを繰り返し、その都度、葉っぱで拭きながら自らの糞尿を大自然に還元し、もう40年以上も正々堂々と生きておられる人物がいたとしたなら、あなたはどう思われますか?

実際、そんな人物がいるんです。

・・・その人の名は、伊沢正名さん。

なぜ彼が、文明に背を向け、過剰すぎるまでの自然回帰へと向かわれたのか、今回はそんなのぐそとそれに深い愛を注がれた井沢さんがテーマです。




■自然に優しく、人に優しいノグソロジスト

井沢正名さん、彼の本業は自然写真家。しかし、もう一つの顔は糞土研究家。

学生時代に自然保護運動に関わったことをきっかけに独学で写真技術を学び、自然写真というジャンルにおいて活躍されている彼の被写体となるのは、主に苔やきのこ、そして菌類。小さくてひっそりと自然の中に暮らすものたちを独自の視点で切り取って作品にされます。

ある時、人間と大便の関係性の矛盾に気づかれた井沢さんは、1974年から自主的に少しずつのぐそを始められ、1999年には100%のぐそのみの生活を実現。2008年には、3000日連続のぐそを達成されましたが、2013年7月に都内でお腹を壊して駅の便所を使用し、途中で連続記録更新を断念。

その後再び可能な限り続けられ、今までののぐそ生活の集大成とも言える、紙を使用せずに水と葉っぱのみを使用する「伊沢流インド式野糞法」を確立して現在に至ります

井沢さんは現在、「野糞ロジスト」としてネット上でサイトを立ち上げ、自然に優しく人に優しい、のぐその啓蒙活動をなさっています。

*井沢さんのホームページ「糞土研究会ノグソフィア」

http://nogusophia.com/

 

■『うんちはごちそう』を書かれた著者、それが井沢さん

私が最初に井沢さんのことを知ったのは、4年近く前のこと。本屋さんで『うんこはごちそう』というけったいなタイトルの本を見つけたのがきっかけです。

この本は絵本の体裁をとっているのですが、ある日、主人公のマオ猫がトイレに流されてしまい、きのこの世界にやってきます。そこで自然界にとっても、きのこにとってもうんこがどれだけ大切なものであるかを思い知らされ、最終的に糞土師である師匠に弟子入りして、さらにうんこについて深く学んでいくというストーリーです。

面白おかしいけれど、なかなかに深淵な自然界の循環のルールについて教えてくれる一冊でした。それを書かれたのが井沢正名さんだったのです。

それからしばらく井沢さんのことは忘れていたのだけれど、数日前、ネットのYahooニュースで井沢さんのインタビュー記事が取り上げられていたのです。そこにはなぜ彼がこれほどまでにうんこにこだわるようになったのかが説明されていてなかなか面白い記事でした。

*Yahooニュース『野糞を続けて43年「奥さんよりウンコを選んだ」伊沢正名さんの信念 「汚物」に責任、自然へ命を返す』

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170413-00000001-withnews-sci

 

■リスクを背負いながらも理想を追求するその姿

のぐそを言葉にするのは簡単だけれど、実際に毎日続けていくとなるとそう容易いことではありません。

井沢さんも過去には、している最中にクロスズメバチに刺されたり、ヒルに血を吸われたり、サルに石を投げられたこともあれば、イノシシが襲ってきたり、マムシやハブ、ヒグマとニアミスしたトラブルもあるそうです。そりゃもう命がけの行為です。

そんな中でも一番怖いのは「人間」とのこと。

できるだけ人目を避けるようにしていても、出くわしてしまうことはあるらしく、「敵とどうやって対決するか。先に気がついた方が勝ちなんです」とおっしゃる。なのでのぐそをする時には背後に薮のあるところを見つけて人が来そうな方を向いてするそうです。

そして人が来たら、近づいて見られる前に「おーい、こんにちは!」って挨拶する。そうすれば、「うんこしながらニコニコあいさつしてくるなんて、コイツは危ないヤツだ」ということで、立ち去ってくれる。「心理作戦ですよ」と井沢さんは笑います。

しかし、こうしたリスクを背負ってでものぐそにこだわり続けるのは一体どういった理由によるものなのでしょう。

 

■井沢さんがのぐそを始めた理由

若い頃、自然保護運動をしていた井沢さんは、ある時、新聞記事で屎尿処理場の建設に近隣住民が反対しているのを知りました。しかし、自分のうんこを処理してもらう施設に対し、臭くて汚いからイヤだと言って反対する市民運動に矛盾を感じます。

それまで自然を破壊するのは行政や企業だとばかり思っていたのが、自分さえよければと運動している住民だって単なるエゴじゃないかと感じたそうで、同時に、トイレでうんこをしている点では自分も反対派の人たちと何も変わらないという事実に気がついたのです。

そして、誰かに迷惑をかけて処理場で始末してもらうくらいなら、のぐそをしてきのこや菌類に分解してもらう方が自然に優しいのではないかという思考にたどり着きます。

その頃、すでに自然写真を撮ってらした井沢さんは、動物の死骸やうんこを分解して土に返すきのこや菌類の働きを十分知っていたので、菌類の働きを守ることこそが本当の自然保護になるという真理に到達したのです。

真理に目覚めた井沢さんはインタビューでこう語ります。

*Yahooニュースのインタビューから〜

本来ウンコっていうのは、次の生き物の命のもとになっているんです。

人間は肉・魚、穀物・野菜・果物といった、命ある「生き物」を食べてウンコをする。そして、人間のウンコを獣や菌類が食べる。菌類はウンコを無機物に分解して、空気中に二酸化炭素を放出します。いわば菌類のウンコですね。そうしてできた土の栄養を植物が根から吸い、光合成で酸素をつくりだす。酸素は植物のウンコとも言えるわけです。

自分のウンコは次の生き物のごちそう。みんな、ほかの生き物のウンコを食べている。ウンコによって命がつながっているんです。

トイレでするということは、ウンコを生き物の世界から追い出しちゃってるわけですよね。下水処理し、焼却して灰にして、セメントにする。ウンコを燃やすために、重油や天然ガスなどの資源も無駄遣いすることになります。それで自然との共生なんて言っても、空念仏ですよ。

 

■偏愛ゆえに招いてしまった悲しみ

しかし、日本人全員がのぐそへと移行した場合、この狭い島国で土地がなくなるなんてことは起こらないのでしょうか?

そのあたりも、井沢さんはちゃんとリサーチされています。彼の調査によれば、のぐそは1ヶ所につき年1回限りの使用ということで計算すると、1日1回365日うんこをするとして、必要な面積は1人あたり1アールとなり、日本人全員だと120万ヘクタールとなって、これだけでもまだ日本の森林面積の約20分1ということで十分余裕があるそうなのです。

もうここまで、うんことその背景について知り尽くした井沢さんに怖いものなんてないのではないでしょうか。

でも、うんこを偏愛してしまったがゆえ、人知れず辛い思いもされていたことがインタビュー記事を読んでわかりました。それは、「最愛の奥様に逃げられたこと」。

奥様は、のぐそ自体の趣旨は理解してくれていたものの、井沢さんが人権派の人たちまで敵に回して批判する姿勢についていけなくなり、数年前に離婚して、現在は独身とのこと。

しかし、井沢さんが人権派の人たちを批判したのには理由があります。

人権派は人間のことしか考えていない。しかも正義感を持っている。井沢さんはそこが気に入らなかったと言います。人間は本来、もっと自然やほかの生き物に対して謙虚にならないといけない。単にのぐそを広めるだけでなく、うんこをテーマに人間の傲慢な生き方を改めようと離婚されてからの活動にはますます熱が入ります。

■糞土思想を体感する

すでに「糞土思想」とまで言って良いほどに 熱を帯びた井沢さんの思想。その思想の根本には次の二つの柱があります。

 

①食は権利。ウンコは責任。のぐそは命の返し方。

②ウンコに向き合うことは、自分自身の生きる責任に向き合うこと。

 

人間には動植物の命を奪った責任があります。おいしいごちそうから汚物をつくりだした責任があります。いわば、うんこは私たち人間の責任のかたまりです。

であるならば、責任をとるために私たちはどうしたら良いのか? それは、のぐそというカタチで自然に生命をお返しし、汚いうんこを菌類や微生物、きのこの力を借りてきれいにすることです。それこそが糞土思想。

わたし自身、子供の頃は、実家が治療院兼、自然派の農家だったことから、祖父母や両親たちが「肥溜め」を活用していた記憶があります。ぷんと独特の匂いを放ちながら畑に振りまかれるそれを見つめながら、人間の排泄物が再び野菜たちの滋養となるプロセスに子供ながら「自然界の循環の不思議」を思いました。

今回、ヤフーニュースで井沢さんのインタビュー記事を読ませていただき、改めて、のぐその重要性に目覚めた私、実は数日前から自分も体験してみるべくそれに適した場所を調査していました。

気温が上がり、雪も溶け、環境は万全です。もうすでに場所を見つけ、心の準備もできています。決行は今度の休日、家人が寝静まった早朝です。

芽吹きの春、大自然の胸懐に抱かれながら、井沢さんの糞土思想を体感してみたいと思っています。

 

 

⭐️ 「食は権利、ウンコは責任、野糞は命の返し方」をモットーに自然との共生を長年に渡り「のぐそ」というわかりやすいカタチで実践してこられた伊沢正名さん。 その深い思想を、四季を通じて使える実用的な葉っぱの図鑑とともに紹介。マニアックな内容にあなたも思わず葉っぱを手にして外に飛び出したくなる!

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