続・スコトーマ(盲点)とコウモリの話

暮らし

 

・・・前回からの続きです。

 

スコトーマとは、言ってみれば「心の盲点」「思い込み」がその親です。スコトーマを持つことで人は視野を狭くし、取り払うことで世界は広がり、正しくモノを見ることが可能になります。最近、私自身が自分にも頑固なスコトーマがあったと痛感し、モノの見方が変わったある出来事についてお話しています。

 

学者肌で長く研究職に従事されてきたエリートで真面目な性格のクライアントさん、かたや治療家でありながら長く落第生的人生を送ってきた世捨て人的性格の私。真逆の性質と思われる二人。互いになかなか接点を見出せぬまま、治療のセッションが続いていたある日、たまたまクライアントさんが着てらしたTシャツから、この世に「国際コウモリ会議」なるものがあることを知りました。

コウモリは私が子供の頃から、憧れながらも北海道には生息しないという理由で遠い存在に感じていた動物なのでした。私のクライアントさんがその国際会議に研究者として参加しているという事実に驚いた私ですが、どうしても解せないことが一つありました。

それは、コウモリが生息しているはずのないこの北海道で、どうやって彼は研究しているのだろうという疑問でした。動物は生き物であり、重要なのはその生態なはずで、それはネット情報や書物で得られるものではありません。もしかしたら彼は、休日を利用して北海道から本州に出向き、通いでフィールドワークをしているのでしょうか?




■コウモリに関する驚愕の事実
 私は、率直にその疑問をぶつけてみました。

「ところで一つ質問なんですが、コウモリのいないこの北海道で、どうやってその生態を研究されているのですか?」

 

・・・そこで返ってきた答えに、私は驚きのあまり思わず大きく口が開き、しばし閉めることを忘れていました。

彼は、平然とこう答えたのです。

 

「コウモリは、すぐ近くの森にもたくさんいますよ」

「えっ!!!!」

 

私は思わず絶句しました。北海道には生息していないとばかり思っていたコウモリが近くの森に棲んでいるというのです。少年時代、道端で出会った中年男性から「北海道にコウモリはいない」と告げられた私はそれをすっかり鵜呑みにして、なんら疑うことなくこの40年以上を生きてしまっていたのでした。

もしそうした思い込みを持たずにいたならば、身近なコウモリについての情報がそばにあった時、それをキャッチできたのかもしれません。ところが「コウモリ=北海道に生息しない動物」という思い込みを一度こさえてしまった私の意識には盲点が生じ、もはやコウモリをキャッチするアンテナは存在しなかったのでしょう。

 

■意識の中のスコトーマをはずす

例えば、ポルシェが大好きな人というのは、街を歩いていてもポルシェが通るとすぐに目がいきます。しかも、詳しい人になると一目見てその型式や年式までわかってしまいます。それは、その人にとってポルシェの重要度が高いからで、脳が五感を敏感にしてポルシェについての情報をいち早くキャッチするからです。

私たちの脳は、日々触れる膨大な情報量の中から、自分にとって重要なものか、そうでないものかを判断し、瞬時に取捨選択しています。その時、フィルターからこぼれ落ちたものは重要じゃないものとして捨てられるのです。もしも人が、ある観念を固辞し、思い込みを強くしていたならば、本当は重要な情報なのに、脳がいらないものとして振り分け捨ててしまうことも当然起こります。

まさにこれがスコトーマであり、この世の真実を自由に正しく捉えようと思うなら、私たちの意識の中にあるスコトーマをいかにしてはずすか、それが最も大切なこととなります。私の場合は、「コウモリ=北海道に生息しない動物」という思い込みがスコトーマを作り、今までコウモリについての情報を自ら遮断してきたと言えるでしょう。

 

■次々に明らかになる新事実

近所の森にコウモリが棲んでいると知った私は、さらに知りたい衝動を抑えきれず、研究者であるクライアントさんに矢継ぎ早に質問を投げかけました。

 

「北海道にコウモリがいるなんて知りませんでした!!本州にしかいないものかと思っていて」

「案外、そういう人は多いですよ」

 

「で、コウモリはどんなところにいるんですか!?誰でも捕まえることができるんでしょうか?」

「僕の研究対象としているコウモリは、木の葉の下に隠れているんです。なので見つけるにはコツがいりますよ」

 

「えっ!!木の葉の下!?」

「・・・そう。木の葉の下です」

 

コウモリは民家の軒下に巣を作るのだろうと思っていた私は、またしても驚愕の事実を知らされ再び絶句しました。虫じゃあるまいし、木の葉の下で暮らすコウモリなんて、まるでふきの葉の下で暮らすコロボックルみたいではありませんか。なんてファンタジックな生き物なのでしょう。

ちなみに本州で見かけるコウモリは、「アブラコウモリ」と呼ばれ、体長5cmほどの小さい種で、民家の小さな隙間から侵入し、暖かな住宅を好んで天井裏などを巣にしてしまうため別名「イエコウモリ」とも呼ばれるそうです。木の葉の下に暮らすコウモリはさらにそれよりも小さいとのこと。研究者であるクライアントさんからコウモリの生態についての専門的な話を聴かせていただいて、私の心はウキウキと弾みました。

 

■小さなそのコウモリの名前は・・・
木の葉の下に暮らすそのコウモリは、アブラコウモリよりもさらに小さく、全長3~4cmほどで主に原生林などに生息し、体重なんと3~6gほどで、地上15メートルの比較的低空を飛びながら、空中や葉の上の昆虫を捕食しながら生きているそうです。

「で、そのコウモリ、名前は何というんですか?」

「管状の突き出した鼻孔を持つことからコテングコウモリと呼ばれます」

「コテングコウモリ!?」

 

なんて愛嬌のある名前なんでしょう。このコテングコウモリ、冬の間は、木の葉の下に隠れて冬眠しているそうで、それを見つけるには雪解け間近のこれからの季節が良いそうです。

 

「見つけるコツを知人に教えたところ、その人は年間200匹以上のコテングコウモリを捕まえました」

「えっ!200匹~!?やはり、コウモリはそこかしこに普通にいるんですね」

「はい。冬眠しているコテングコウモリは丸くなって、ちょっと見た目には死んでいるような状態で木の葉の下に横になっているんです。それをそっと摘み上げると、体は小さいんですが、茶褐色のフサフサした毛に覆われていて、触ると独特の感触があるんです。」

 

体中、毛に覆われて丸くなったコテングコウモリが、雪原のいたるところにうずくまっている映像を思い浮かべた私は興奮を抑えきれませんでした。一体、どんなコウモリなのか気になり始めたあなたのために、ここら辺でネットで見つけた可愛いイラストをご紹介しましょう。

●コテングコウモリ
こちらのサイトから『HOKKAIDO RED DETA BOOK』

 

これが、丸まって冬眠するとこのようになるそうです。↓
■コウモリをきっかけに・・・
 コウモリが身近なところに生息しているという事実。しかも、冬の間は冬眠していて省エネモードに入るため、一日にわずか数回ほどの少ない心拍数で体内エネルギーを温存し、厳しい北海道の冬を乗り越えているそうで、私はますますコテングコウモリに関心を強くしました。

最初は生真面目でとっつきづらい印象を持っていたクライアントさんも、自分の好きなコウモリの話とあって、次第に表情が生き生きと輝き始め、研究者しか知らないようなコアな話を惜しげもなく語ってくださいました。その後、私たち二人はしばし治療を忘れ、まるで長年来の親友のようにコウモリについて語り合ったのです。

話をしてみるとなかなかユニークな視点をお持ちの方で、独特のユーモアセンスがあり、人間的にとても魅力的な方であることがわかりました。生真面目でとっつきづらいと感じていたのは、私の単なる「思い込み」であり、私自身のスコトーマによって彼の人柄や全体像を正しく捉えきれていなかったのだと深く反省させられました。

一般にコウモリは研究対象になることが少ないゆえ、まだまだ未知の部分が多いそうです。おまけに企業や組織からの研究資金の援助がないため、研究者は経済的なバックアップのない中で過酷な知の探検を続けなければなりません。彼の場合も研究費は全て自費。国際的な論文を発表する場合は専門の翻訳家にお金を払って英文チェックをしてもらわなければならず、研究にはかなりのコストがかかります。

 

■コウモリ研究が人間にもたらすもの
にもかかわらず、コウモリの研究をするのはどんな目的があってのことなのでしょう?

彼は、最後にご自分の夢についてこう語ってくださいました。

「コウモリは、カラダは小さいとはいえ私たち人間と同じ哺乳類であり、仲間なんです。そのコウモリが厳しい冬を自分の体を省エネモードに切り替えて、心臓の負担を少なくして乗り越える。そのメカニズムがわかって人間に応用できれば、心臓病の新薬が開発できたり、もしかしたら私たち人間も冬眠できるようなカラダを手に入れることができるかもしれません。そんな日を夢見て私は日々コウモリを研究しているのです」

・・・まるで少年のように目をキラキラさせてそう語るクライアントさん。私とは全く反対の優等生タイプとばかり思い込んでいた彼も、案外、自分に似たところのある夢想家であり、情熱家なのかもしれないな、そう感じて嬉しくなりました。

人間が冬眠できるようになることは、あながちあり得ないことではありません。実は極低温状態での生存例が報告されているのです。

2006年10月7日に兵庫県の六甲山で、ある男性がガケから落ちて骨折のため歩行不能となり、その3週間後に仮死状態で発見され救助される事件がありました。男性は遭難から2日後には完全に意識を失い、発見されるまでの23日間、食べ物だけでなく水すら飲んでいなかったことが分かったのです。

発見時には体温が約22℃という極度の低体温症で、ほとんどの臓器が機能停止状態だったのですが、全く後遺症を残すことなく回復したのです。担当した医師は「いわゆる冬眠に近い状態だったのではないか」と伝えています。クライアントさんのコウモリ研究がやがて人類の能力を広げるきっかけになったならどんなにか素晴らしいことでしょう。

 

■コテングコウモリ研究会・会員募集!
今、私は例年以上に雪解けの季節を心待ちにしています。もちろん、それは冬眠明けのコテングコウモリと出会うためです。そして、その生態についてもっと知って、さらに理解を深めたいという思いに駆られています。なぜならば、このコテングコウモリ、数いるとは言っても近年の急速な環境の変化によって、この北海道でも準絶滅危惧種に指定されていて、本州のいくつかの県では近い将来絶滅することが予想されているのです。

それゆえ、北海道に暮らす人々にもその存在を知ってもらうために、近い将来「コテングコウモリ研究会」を立ち上げたいと思っています。コテングコウモリ研究会、略して「コテ研」

バードウォッチングよろしく「バットウォッチング」と称してコウモリの生態を観察したり、情報を交換し合う場をつくり、それを通じて市民の環境保全に対する意識を高められるのではないかと思っているのです。私は会長、そして、名誉顧問はもちろん、コウモリ研究家であるクライアントさんにお願いするのはいうまでもありません。

それにしても自分の中のスコトーマが取れたことで、随分と世界が広がった気がします。いつの間にかクライアントさんの背中の痛みや首の動きも改善され、それを自覚してもらえるようにもなりました。今では彼から気難しい表情は消え、笑顔でお会いできるようになりました。これもきっとコウモリ効果です(笑)。

あなたもぜひ、コテングコウモリ研究会に入会しませんか?

今ならもれなく、曇りをはらって正しく世界を見られるようになる眼と、自由の翼がついてきます。

本当かって?もちろん本当ですとも。

完全にスコトーマがはずれて、北海道にもコウモリが棲むという事実を知った私が言うんですから間違いありません(笑)。

 

 

⭐️ 鳥のように優れた能力で自由に大空を飛び回るコウモリ。その進化により世界中に広がり、1200種類以上もいる哺乳類として大繁栄に成功しました。しかし、その進化には謎が多く、近年のDNAの分析調査では、なんとウマに近い特徴を持つとも言われています。一体コウモリとは何者なのでしょう?長年、世界中のコウモリを観察してきた著者がその正体に迫ります!

コウモリの謎: 哺乳類が空を飛んだ理由

新品価格
¥1,620から
(2017/2/22 05:50時点)

 

にほんブログ村 健康ブログへ

★ついでにポチッとして頂けたらうれしいです。ありがとうございます。

にほんブログ

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました