特殊登山会予行演習報告

札幌市内に、年間150回以上季節問わず裸足で円山登山を敢行する猛者がいるのを、あなたはご存じだろうか？

その人は登山家でもなければ、アスリートでもない、ましてや足限定のストリーキングでもない。普段は裸足とも登山とも縁もゆかりもないフリーランスの管理栄養士である。私は彼女を親しみを込めて「コトちゃん」と呼んでいる。コトちゃんがなぜ裸足で山に登るのか？それには理由がある。

からだから「余分な電気」を抜いているのだ。

私たちの祖先は長い間、裸足や素肌で地球の大地と直接つながり、「アーシング」しながら生きてきた。アースしながら電気を地面に逃し、生体エネルギーのバランスを保っていた。ところが今や現代人の誰もが化学繊維のカーペットの床を歩き、断熱材原料のベッドに寝て、非伝導性のゴム靴を履いている。その上、スマホや電磁波を出す電気製品を常に携帯しており、大地と切り離された状態で生活を続けるようになった。結果、体内に電気を溜め、心身の不調を訴える人々が街にはあふれている。それを改善する方法の一つがアーシングなのだ。

この秋、私は世にアーシングを広めるべく、コトちゃんと「札幌特殊登山会・裸足原人」を結成し、彼女が会長、私が副会長に就任した。そして先日、まずは二人で予行演習をしてみようということになった。生憎にわか雨の天気だったが、会長いわく「地面が濡れていたほうが、水の粒子がクッションになって痛くなく歩けますよ」とのこと。さすがアーシングの女王、地面を知り尽くしている。

登山口で靴を脱ぎ、いよいよ登り始める。何の躊躇もなくスタスタとまるで軽業師のように足を使う会長が頼もしい。山の大気が彼女を包み、時おり差し込む木漏れ日で足裏がキラキラと黄金色に輝いた。その姿の何と神々しいこと。私は久しぶりの裸足で、足底に当たる小石に「ウッ！」とうめき声を上げそうになりながらも、自分が会長よりも年上であること、そして男であるというつまらないプライドからそれを押し殺し、表面上は何食わぬ顔を装いながら、山頂へ歩を進めた。

登りに40分ほどかかっただろうか、軽々と登る会長の背中に何とか追いつこうと必死で登るといつの間にか頂上に着いた。瞬間、視界がパッと開け、眼下に札幌市内が一望できた。同時に空は晴れ上がり、陽の光が私たちを祝福した。記念撮影したのだが、後で確認すると自撮り慣れしていない私の顔は半分切れていた。それに比べ、会長は満面の笑みである。さすがアーシングの女王、彼女は太陽にもスマホのカメラにも愛されている。

山頂では三年番茶を飲み干し、一休みしてから下山した。度々すれ違う登山者たちは、皆一様に２度見しながら驚いた様子で「裸足ですか？」と当たり前のことを訊ねるのだが、私たちとしても「はい、裸足です」と当たり前のことを答える以外ない。それくらい私たちの裸足登山は当たり前じゃない反社会的行為なのだろうか。

それにしても会長はペースを乱すことなく楽々と降りてゆく。まるで足に羽が生えているかのようだ。次第に私のほうもステップが軽快になっていき、意識がクリアになった。感覚が敏感になり、途中何度も地面に落ちているガラスの欠片に気づき、それらを事前に拾ってはコトなきを得た。切り傷や擦り傷をつくることなく、ましてや最も恐れていた犬のウンコに遭遇することもなく無事下山できた。その日はそのまま会長にお礼を言って別れ、帰宅したとたん無性に眠くなり、普段あり得ないくらい爆睡した。目覚めると私は自分の中の変化に気がついた。からだの中から「何か不要なもの」が抜けていったのがわかったのと、長い間気になっていた右中足骨部分の違和感がなくなった。そして心身ともにとてもスッキリした。これはまるでSC60の全身施術を受けた後みたいだ。

今改めて思うのは、会長であるコトちゃんの逞しさだ。あのあざやかな足さばきと人目を気にせぬ度胸は、すでに名人の域に達している。私がそれを超えるには、もはや全裸で登山する以外ないように思われる。

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