栞猫
私は一匹の猫を飼っている。餌は必要ない。散歩にも行かない。気まぐれにジャレつくこともない。
にも関わらず、私が必要とする時にはいつだって正確に目的の場所へと導いてくれる。大変優れた猫である。
猫は全身が白い毛で覆われ、額にハの字の黒い斑点がある。まるで鬼のように顔つきが険しく、いかにも門番という雰囲気を湛えている為「般若」と呼ぶことにした。
般若を拾った場所は、BOOKOFF中の島店。そこで購入した文庫本のうちの一冊、『寺山修司青春歌集』をパラリとめくると一枚の小さな写真が挟んであり、そこにいたのが般若だった。
表紙の少女と般若の写真がすてきに似合っていた。私は気に入ってその日から般若を栞として使うようになった。
ジーンズのポケットの中、馴染みの喫茶店、晴れの日の公園…。歌集のあるところに猫もいる。この先、私が死んだとしても、般若は歌集とともに生き続ける。
⭐️ ポケットに歌集を入れて街を歩く。湖畔に佇む。丘に立つ。何気なく開いたその１ページに寺山の感じた風景が蘇る。言葉は感動を紡ぎ、私たちを非日常へと誘う。人が生き続ける限り、青春に終わりはない。
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